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亡国太子と近衛兵  作者: 佐藤周
6章 貴人の責務
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2

そのころ、カネンとクミルは、目を凝らし、平野をかけてくるものはないかと探していた。


クミルはオジンたちに放尿したあと、一目散に逃げだし、丘を駆け下りていた。かれが得意とするのは隠れること、またばか騒ぎの陽動をすることで、ことが露見し戦場に変貌した砦では、自分は役立たずでしかないとの判断だった。

そのあと、平原を走りに走って、カネンと合流。


「あとから、太子さまとアシムが、来る。」


そう言って、カネンが準備していた馬に乗り込み、二人は馬上から丘を駆け下りてくるものはないかと探す。

うっすらと稜線に、光が見えた。徐々にその光は明るくなり、太陽がその頭を見せる。

夜が明ける。それは確実に、刻が過ぎているというあかしであり、二人の不安は募る。


「もしかして、」


駄目だったんじゃないのか、とクミルが言いかけたとき、カネンが叫び、手を振った。


「こちらです! こっちだ――」


一騎、馬がかけてきた。クミルはほっと、息をつこうとしたが、すぐに、その馬上に、一人しか乗っていないことに気が付く。

カネンも、すぐに気が付いた。そして馬上のメイは、助かったというのに、やつれ果てた表情をし、これが子供の目か、というほどに、険しいものをまぶたに乗せている。


メイは二人のもとにたどり着いても、まったく、喜びの表情を見せなかった。かわりに、


「アシムが、置き去りになった。」


と、メイは一部始終を早口に伝えると、カネンに向けて、言った。


「カネン、兄さまたちは。」

「ご無事です。いまごろ、街に戻っているのではないかと。」

「わたしたちも戻るぞ。すぐにだ。」


カネンは、メイの様子を見て、不安になる。昨晩、メイは第一太子の代わりにさらわれてから、いつ殺されるかわからない緊張のもとに晒され、おそらく一睡もしていない。

少年は、いまにも倒れそうだった。ショウの街まではここから、馬を駆り続けても一日半はかかる。カネンはメイに、近隣の街で休憩するように言った。カネンとクミルが、街への使いになるからと。


「いかん。」


メイは首を振った。


「軍を出してもらう必要があるんだ、カネン。わたしが直接兄さまに頼まねば、どうすることもできない。」

「軍を。」


カネンは微妙な表情をした。いまいるこの場所は、モールの国との境にある。よほどの大義名分がなければ、街として軍を出すわけにはいかない。政治的な問題になるからだ。

太子の救出や、弔いであれば、まだ名分が立った。しかし、その配下では。


「カネンが考えていることは、わかる。」


メイは光る眼でカネンを睨んでいった。ひどく剣呑な表情。疲労と、またそれ以上に、アシムを置き去りにしたことに対する自責が、少年の人相を変えていた。


「だから、わたしがいかなくてはならない。できるだけ早く。馬を潰してでも、今日中に、街へ帰るぞ。」



メイたち三人は、馬を走らせた。

途中、休憩もとらず、ひたすら馬を駆り続ける。成人しているカネンでさえ、疲労と、長時間の乗馬により、何度も気が遠くなりそうになり、クミルなどは、


「もう、限界です、置いていってください。」


と言い、途中で馬をおり、げえげえと嘔吐しはじめた。それでも、メイは止まらない。

途中、遅れながらも捜索に出ていたショウの街の偵察兵に出会った。当然、兵は喜び、よく戻られた、と少年太子を迎えようとしたが、


「馬を代えてもらいたい」


とだけメイは言って、カネンは呆然とする隊の長に事情を話すと、水袋一つだけを受け取り、馬を代え、メイとカネンは再び、走った。

 

そうやって日中、馬を駆り続けて、日が落ちても走り、ショウの街にたどり着いたのは、夜も更けたころだった。そのときには、いくらかの騎兵が、灯りを持って、メイとカネンを先導していた。

 

ショウの街の入り口に、人が集まっていた。カネンが目を細めてみると、人の集まりの中央に、ゲルツがソラを引き連れて、待っていた。


「メイ、よくぞ戻ったな!」


ゲルツはよく通る声で、そう言ってメイたちを迎えた。メイは、馬を降りると、一礼して、すぐに顔を上げていった。


「ただいま、戻りました……ところで、早速ですが、相談が。」


メイが切迫した表情でそう言うと、ゲルツはすべてを察しているかのように手を上げて、メイを制した。


「わかっている。とにかく、おれの部屋で話を聞こう。カネンも、ついて来い。」


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