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亡国太子と近衛兵  作者: 佐藤周
6章 貴人の責務
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1

赤髪のオジンは、苦り切った表情で、アシムが丘下へと墜落していったあと、かれの戦場の跡を眺めていた。

 

その場で斬り殺されたものは六人、息も絶え絶えで、もう死ぬだろうというのが二人、何らかの怪我を負ったものが、八人。十人以上の手下が地面に伸びている。


それだけでも手痛い損失だが、何より、あの男を倒すのに、時間をかけすぎた。いまごろあの亡国太子は丘を降りて、悍馬に鞭を打って一目散に逃げているだろう。

 

「撤収するぞ。けが人を回収しろ。」


 オジンがそう言うと、手下たちはばらばらと動き出す。その間をぬって、副将のマリィが、馬を寄せてきた。


「撤収ですか。この後はどうします。」 

「どうするもこうするもねえよ。完全に、失敗だ。」


オジンはため息をつく。


「セイケとおれらの関係も、セイケとショウの街の第二太子のはかりごとも、全部ばれちまった。あのガキに全部、見られた。もみ消しもできん。亡国太子でも、太子は太子だ。」

「あの男――」


そう言ってマリィは、首を伸ばして、オジンの手下たちが仲間たちを回収している、血にまみれたアシムの戦場を見る。


「強かったですね。」


その彼女の顔は、どこかうっとりしているように見えて、オジンは呆れた。


「おまえも、ヘンな奴だな……ただ、確かに強かった。以前見たときも、強い奴だとは思ったが、ここまでとは思わなかったな。」

「あら、以前も会ったことが?」

「ああ、ほら、セイケの番頭のウタに、荷物を運ばせたときに、邪魔した風来人がいたと話したろ。あの顔の傷は覚えている。そのときも五人、倒したが、今回は……」


オジンは首を振った。そして改めて、アシムとその亡国太子によって奪われたものの大きさに気が付く。

セイケとのつながりはもう断たれたも同然だろう。その積荷を奪う機会はほとんどなくなる。


それに、今回の第一太子の誘拐に関して、約束していた金もパー。また第二太子がショウの街の司長になったあかつきには、オジンはその急所ともいえる弱みを握れたわけだから、これまで以上にやりたい放題ができた。そうなれば、シルシも滅ぼしたし、オジンはこの地域一帯の、山賊の王になれる……はずだった。


悔やんでも、悔やみきれぬほどの損失。オジンは唇をかむ。


「マリィ。」

「はい。」

「あの男の、死体を探せ。」


マリィは首をかしげる。


「もう死んでいるでしょう。」

「それを確認したい……確実に、殺しておきたい。もしも生きていたなら幸いだ。死ぬほどの苦しみを与えてから、殺してやる。」


ふんふん、とマリィはうなずく。


「わかりました。必ず見つけましょう。ただ……」

「なんだ。」

「いくさの準備はしなくてもいいんですか? ショウの街の軍が、攻めてくるのでは――」

「馬鹿だな、お前は。」


オジンは吐き捨てるように言った。


「いまごろ、ショウの街とセイケとは関係を修復している。亡国太子も帰った。おれたちの存在は、ただの山賊に成り下がった。だとすると、どうしてわざわざ軍を出す? 」

「あのアシムという男を――」

「助ける? ありえんな。街のやつらは、兵士を使い捨てだと考えている。消耗品一つのために、わざわざ軍を出す奴なんていない。余計なことを考えず、あの男を探せ。」


オジンは吐き捨てるようにそう言うと、おれはもう寝る、と言って、馬を砦へ返した。

マリィは腰に手を当て、その後姿を見送る。もう長い付き合いだけれど、あの短気さと高慢な口調、勘弁してほしいわ。

ただ、オジンがその指示をあやまることはめったにないし、その指示を無視したものを許すことはありえない。マリィは面倒な指令を受けたな、と思いながら、ある名前を呼んだ。


「テダー? いるー? 」


最近、テダという名前の少女が、彼女の配下に入った。前は別の山賊のところにいたとのことだが、マリィは、シルシの一味を皆殺しにしたとき、彼女の姿を見た気がしていた。


しかし、テダはよく気がきき、よく働いた。まだ女になっていないので、いろいろと使い道は限られたが、マリィはこの娘は将来、高く売れるだろうと思い、手元に置いていた。


「テダ? どこだい?」


いつもならすぐに駆けつけてくるのに、いくら呼んでもテダは来なかった。あの娘はやたらと山野を走るのが早く、また夜目がきく。今回の仕事にうってつけだと思ったのに。


「あとで、仕置きだな。」


マリィはそうつぶやいて、別の部下を呼び、アシムの死体を探すべく、手下たちに指示を出し始めた。

結局テダは、それ以降、一度も彼女の目の前に現れなかった。


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