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赤髪のオジンは、苦り切った表情で、アシムが丘下へと墜落していったあと、かれの戦場の跡を眺めていた。
その場で斬り殺されたものは六人、息も絶え絶えで、もう死ぬだろうというのが二人、何らかの怪我を負ったものが、八人。十人以上の手下が地面に伸びている。
それだけでも手痛い損失だが、何より、あの男を倒すのに、時間をかけすぎた。いまごろあの亡国太子は丘を降りて、悍馬に鞭を打って一目散に逃げているだろう。
「撤収するぞ。けが人を回収しろ。」
オジンがそう言うと、手下たちはばらばらと動き出す。その間をぬって、副将のマリィが、馬を寄せてきた。
「撤収ですか。この後はどうします。」
「どうするもこうするもねえよ。完全に、失敗だ。」
オジンはため息をつく。
「セイケとおれらの関係も、セイケとショウの街の第二太子のはかりごとも、全部ばれちまった。あのガキに全部、見られた。もみ消しもできん。亡国太子でも、太子は太子だ。」
「あの男――」
そう言ってマリィは、首を伸ばして、オジンの手下たちが仲間たちを回収している、血にまみれたアシムの戦場を見る。
「強かったですね。」
その彼女の顔は、どこかうっとりしているように見えて、オジンは呆れた。
「おまえも、ヘンな奴だな……ただ、確かに強かった。以前見たときも、強い奴だとは思ったが、ここまでとは思わなかったな。」
「あら、以前も会ったことが?」
「ああ、ほら、セイケの番頭のウタに、荷物を運ばせたときに、邪魔した風来人がいたと話したろ。あの顔の傷は覚えている。そのときも五人、倒したが、今回は……」
オジンは首を振った。そして改めて、アシムとその亡国太子によって奪われたものの大きさに気が付く。
セイケとのつながりはもう断たれたも同然だろう。その積荷を奪う機会はほとんどなくなる。
それに、今回の第一太子の誘拐に関して、約束していた金もパー。また第二太子がショウの街の司長になったあかつきには、オジンはその急所ともいえる弱みを握れたわけだから、これまで以上にやりたい放題ができた。そうなれば、シルシも滅ぼしたし、オジンはこの地域一帯の、山賊の王になれる……はずだった。
悔やんでも、悔やみきれぬほどの損失。オジンは唇をかむ。
「マリィ。」
「はい。」
「あの男の、死体を探せ。」
マリィは首をかしげる。
「もう死んでいるでしょう。」
「それを確認したい……確実に、殺しておきたい。もしも生きていたなら幸いだ。死ぬほどの苦しみを与えてから、殺してやる。」
ふんふん、とマリィはうなずく。
「わかりました。必ず見つけましょう。ただ……」
「なんだ。」
「いくさの準備はしなくてもいいんですか? ショウの街の軍が、攻めてくるのでは――」
「馬鹿だな、お前は。」
オジンは吐き捨てるように言った。
「いまごろ、ショウの街とセイケとは関係を修復している。亡国太子も帰った。おれたちの存在は、ただの山賊に成り下がった。だとすると、どうしてわざわざ軍を出す? 」
「あのアシムという男を――」
「助ける? ありえんな。街のやつらは、兵士を使い捨てだと考えている。消耗品一つのために、わざわざ軍を出す奴なんていない。余計なことを考えず、あの男を探せ。」
オジンは吐き捨てるようにそう言うと、おれはもう寝る、と言って、馬を砦へ返した。
マリィは腰に手を当て、その後姿を見送る。もう長い付き合いだけれど、あの短気さと高慢な口調、勘弁してほしいわ。
ただ、オジンがその指示をあやまることはめったにないし、その指示を無視したものを許すことはありえない。マリィは面倒な指令を受けたな、と思いながら、ある名前を呼んだ。
「テダー? いるー? 」
最近、テダという名前の少女が、彼女の配下に入った。前は別の山賊のところにいたとのことだが、マリィは、シルシの一味を皆殺しにしたとき、彼女の姿を見た気がしていた。
しかし、テダはよく気がきき、よく働いた。まだ女になっていないので、いろいろと使い道は限られたが、マリィはこの娘は将来、高く売れるだろうと思い、手元に置いていた。
「テダ? どこだい?」
いつもならすぐに駆けつけてくるのに、いくら呼んでもテダは来なかった。あの娘はやたらと山野を走るのが早く、また夜目がきく。今回の仕事にうってつけだと思ったのに。
「あとで、仕置きだな。」
マリィはそうつぶやいて、別の部下を呼び、アシムの死体を探すべく、手下たちに指示を出し始めた。
結局テダは、それ以降、一度も彼女の目の前に現れなかった。




