表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国太子と近衛兵  作者: 佐藤周
5章 救出作戦
PR
34/48

7

ここまでは、順調。しかし、難しいのはここからだ。


「クミルが奴らを引き付けてはいますが、おそらく、すぐに事は露見します。いいですか。丘の下で、カネンが待っています。太子さまは何があろうと、そこまでたどり着き、カネンの馬に乗って逃げてください。」

「何があろうと――?」


メイの表情に少し、不安が走った。アシムはうなずいて言う。


「ええ、何があろうと。」


アシムはそう言って、メイの目を見た。

少年は、蒼白な顔をしているが、自分を見失ってはいない。深くうなずき。

「分かった。」


と、言った。

強い子供だ、と思う。アシムはてじかにあった、獄舎の吏が使う短棒をつかむと、


「まずは、馬を奪うために、馬屋へ向かいます。では――」


そう言って、走りはじめる。

クミルの陽動によって、メイを助けることはできた。しかし、同時に、侵入者がいる、ということが明らかになってしまった。


砦の内部で警鐘が鳴らされ、砦内の燭台に火がともり、おのおの眠っていたものも飛び起き、砦の仲は厳戒態勢。子供を伴って、隠密のまま、抜け出すことは不可能。あとは、できるだけ速く、疾く、暗闇を走り抜けるだけ。


獄舎を出ると同時に、警護に当たっていた、二人組の男と出くわした。


「あっ、こどもが……」


一人がそう言うまえに、アシムは短棒でその顔を横殴りに殴る。もう一人が、驚きのあまり呼吸を忘れたところに、棒が蛇のように伸びて、そののどを潰す。

しかし、


「――てめぇっ」


そう言って、死角から一人の男が、抜き打ちにアシムに切りかかってきた。

間に合わない。アシムがせめて斬撃を腕で受けようと体をすくめた瞬間、ごん、と鈍い音がして、切りかかってきた男の目に星が飛び、男はよろける。その隙をついて、アシムは男の脳天を棒で撃つ。


男が、崩れ落ちた。その後ろでは、石を投げた姿勢のままの、メイ。


「助かりました。」


アシムは短く言うと、再び、メイの手を引いて走る。

ひた走るアシムとメイに、砦内で気が付く者たちが増え始めた。しかし、そのときには二人は、馬屋にたどり着いていた。


アシムは馬に水を飲ませていた男を殴打して倒すと、つながれていた一匹、やたらと興奮した馬の手綱を強引に引き、メイをまず、馬に乗せると、続いて自分もその上におおいかぶさるようにして乗り込む。


鞭を入れると、馬は、狂ったように走り出した。その様子を見て、弓を射かける者もいたが、闇夜を疾走する悍馬に矢を的中させることができない。


「太子が逃げたぞ、獲物が奪われた!」


そう叫ぶ男たちの声を背に、アシムとメイを乗せた馬は、砦を横切り、丘の桟道へと走る。


山賊たちの罵声に交じって、アシムは一つ、自分の名を呼ぶ声を耳にした。その声は怨嗟にあふれ、思わずアシムは、後ろを振り向く。

声の主は、ヨシン。目を見開き、歯をむき出しにして、ヨシンは憎しみをあらわにした表情で、アシムの方を見て、その名を呼んでいた。


――嫌な予感がするな


そう思いながら、アシムは再び目線を前に戻し、ひたすら、馬を走らせる。

天空では、月が雲に隠れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ