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オジンたちが獄舎に使っているのは、はじめから砦に残されていた、捕虜の収容所だった。
その牢の一つに、メイは閉じ込められ、その前で、ヨシンとオジンが言い争いをしていた。
「なんでガキをさらってきたんだ、小僧。お前にはこいつが、ゲルツに見えるのか?」
燃えるような赤髪のオジンが、その顔と同じくらい顔を紅潮させ、ヨシンに言った。反対にヨシンは、真っ青な顔で答える。
「情報が違っていた……セイケの兵士が、おれに間違った情報を教えたんだ。」
「そうであろうとなかろうと、お前はしくじったんだ。セイケから依頼された仕事をな。その依頼主に責任をおっかぶせて、なんとかなると思っているのか?」
「それでも、僕は、」
ヨシンは必死に言う。
「太子の一人を連れてきた。」
「ああ、亡国太子をな。いいか、おれは、モールとも取引していたんだ。ゲルツをあいつらに引き渡して、見せしめに殺させるためにな。それが、このガキじゃ――」
オジンは怒鳴り声で言った。
「一銭の金にもなりゃしねぇ!」
メイはその様子を見ながら、妙に冷静な気分で、ああ、自分はここで殺される、と思った。
その場は、明らかに血を欲していた。オジンの怒りは苛烈で、ヨシンはその怒りを抑えられず、そしてすべての原因は、メイだ。
薄暗い牢屋、言い争う男たち。メイは、これが自分が最後に見る光景か、と思った。死ぬのはもはや、あきらめるにしても、こんな暗がりの中でとは、やりきれない。
その暗がりにふと、二人の影が紛れ込んできた。
オジンが言う。
「くそ、セイケからはこの誘拐の前金で積荷を盗っていたんだ。それに――」それからオジンは、はっと顔を上げてヨシンに言う。
「まてよ、小僧、船の操縦士はどうした。」
「それは――」
ヨシンは言いにくそうにして、がっくりと首を垂れた。
「――殺し損ねた。なんでか、おれの襲撃がばれていたんだ。それで、川の中に叩き落して――だけどセラルの川だ、きっとおぼれ死んでいる――」
「馬鹿野郎!」
罵声。火を噴くような。
「ちくしょう、セイケとのつながりがばれたら、奴らは猛烈に怒るぞ。どうにかして、それだけは悟られねえようにしないと――」
そうぶつぶつというオジンの後ろで、やってきた二人の人影が、メイの気を引くように合図をした。
メイはふと、そちらに目をやって、小さく息をのんだ。
二つの人影は、山賊の姿をしたアシムとクミルだった。
こんな場面で、メイは思わず笑いそうになる。あまりに二人の山賊姿は、堂に入っていた。
アシムが小さくうなずくと、クミルの姿がかき消えるように消えた。
「やれることは何でもやらなきゃならねえ。おれたちが単独で、ショウの街に喧嘩を売ったことにするんだ。なに、モールに近いこの場所なら、奴らは簡単に軍を起こせねえはずだ。そのためには――」
オジンはメイに目を向けた。燃えるような赤髪と対照的に、その目は氷のように冷たい。
「このガキを殺す、そして、その首を、ショウに――」
そこまでオジンが言いかけたとき、下品な音が上方から聞こえ、続いて、
べちゃっ
という音がして、オジンの頭の上に、茶色の人糞が落ちてきた。
「はっはっは、大当たりぃ!」
そう大爆笑しながら、獄舎の梁の上で尻を丸出しにしているのは、クミル。唖然として見上げるオジンとヨシン、さらにオジンの手下たちに向かって、
「あー、なんかしょんべんもしたくなってきたなぁ」
そう言って、クミルは自分のモノを取り出すと、見上げた顔めがけて、色の濃い小便をぶちまける。
阿鼻叫喚。地獄絵図。慌てふためくオジンたちを見ながら、クミルは高笑いをして叫ぶ。
「はーっは、悔しけりゃ追いかけてきな!」
と叫ぶと、クミルは姿を消す。
「追いかけろ、八つ裂きにしろ!」
オジンはそう叫び、彼の手下、それにヨシンは、一斉に外に走り出す。
オジン本人も、「しまっておけ!」と近くにいた男に鍵を渡すと、猛牛のような怒りの声を上げて、獄舎から出ていった。
鍵を渡された男は、アシム。暗がりにいて、泥を塗った顔に、オジンも、ヨシンですら、気が付かなかったようだ。
いったん、走り出していったオジンたちの様子をうかがってから、悠々と獄舎を横切ってくると、アシムはメイの牢の鍵を開け、手を差し伸べ、少し笑って言った。
「お見苦しいものをお見せしましたが……さて、太子さま、こんなむさくるしい場所、さっさと出ましょう。」
「アシム!」
そう叫んで、メイは思わず走り出し、アシムに抱き着いた。アシムの着こむ皮衣から、汗と、汚れの臭いが立ち上っていたが、いまはその山野の臭いが、メイにとってはどうしようもなく心強かった。




