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果たして、セラル川からの一本の支流が砦のある丘の下、ぽっかりと開いた穴に向かって流れ込んでいるのを、アシムたちは発見した。
支流と言っても、かなりの水深と、川幅がある。しばらく潜って流されていけば、かがり火をくぐって、丘の中へと入れるだろう。
命がけにはなるが、真正面から突入するよりもずいぶんと生存率は上がるはずだ。
アシムとクミルは、するすると鎧と剣を脱いだ。
カネンはしばらく躊躇していたが、観念したように言った。
「無理だ。」
アシムがカネンを見ると、かれは首を振った。
「わたしは、泳げないんだ。」
アシムは思わず笑いだしそうになったが、カネンがあまりに消沈するので、慌てて言った。
「いや、別にいい。むしろ、元から、カネンにはここで待っていてもらわないといけないと思っていたからな。これからは、戦いの場面だし、メイさまを助け出したあと、街までお連れするものもいる。」
「そうか。」
「そうだ。どこかで馬を隠していろ。そしてメイさまが逃げ出してきたら、馬に乗せて、風のように去れ。」
カネンは分かった、と言ってから、皮肉っぽく笑う。
「亡国太子に仕えることになって、おれの悪運は極まったと思ったが、その底があったとはな。まさか賊あがりのものたちに太子様の命を預けて、自分では何もできないとは。」
そう言って、カネンは半ば裸になったアシムとクミルを見て、言った。
「二人とも、死ぬなよ。そしてメイさまを連れて、帰って来い。」
カネンとクミルはうなずき、そして互いの体を命綱で結ぶと、丘の腹に向かって流れる濁流に、その身を投げ出した。
水流の流れは、予想以上に早かった。かがり火に照らされぬよう、身を潜めて……と考えていたが、川に入ったとたん、アシムとクミルの体はあっという間に川底に引きずり込まれ、二人は半ば、上下を見失いながらも、とにかく上へ上へと泳いだ。
おぼれかけ、また水流に流されるうちに、何度もその身を岩に打ち付けた。ほうほうのていで水面に水を出したときには、二人のからだは魂が抜け出たように虚脱し、疲れ切っていた。
――死ぬかと思った。
しかし、彼らは生きている、生きて、水面から顔を出したとき、天に光り輝いていた星々も、赤々と燃えていたかがり火も見えず、周囲に広がるのは延々と続く闇。
アシムたちは、赤髪のオジンたちがいる丘の足元、地下水脈に入り込んでいた。
なにも、見えんな、とアシムは思いながら、浮いていた。しかし、しばらくするうちに目が慣れてきて、おぼろげながら物の形が見えてくる。
先に、目が慣れたのであろう、クミルが動き出した。結んだ命綱に引きずられるようにして、アシムは足の着く陸地へと誘われる。
真の暗闇ならば、目が慣れることもないはずだ。そう思って見上げると、天空に、真四角に切り取ったような、光の漏れる空間が見え、そこから三本、綱が垂れている。
その先を追っていくと、流れが緩やかになった部分に、井戸桶がつるされていた。
「やったな、クミル、思い通りだ。」
アシムはそう言ったが、クミルは渋い顔をしていた。
「思ったとおり、だが、思った以上に、高いな。」
確かに、高い。貴族の住む三階建ての家くらいの高さはあるかもしれない。
「高いは高いが、あのロープを伝って登れないことはない。」
「のぼれないことはないが、時間がかかるだろ。途中で水くみをする奴らに見つかったら、一巻の終わりだぞ。」
というわけで、アシムとクミルは手分けして、ほかの侵入口がないかを探った。すると、
「これだ。」
と、クミルが声を上げて、先ほど見た桶よりも、だいぶ古い桶をかかげた。
「これを上ろう。上は、ふさがっている。たぶん、もう使われていない古井戸だ。」
アシムは喜んで近づいてみて、その桶につながっている綱を見て、だめだと思う。長年放置されていたせいか、綱は腐食し、いまにも切れそうだ。
「上っている途中に切れるぞ。」
「だが、ほかに方法もない。いまさら引き返せないぞ? おまえがあの濁流を、さかのぼって泳げるなら別だが。」
確かに、ほかに方法はなさそうだった。しかし、そのまま上るのはあまりにも危険だ。
アシムは指で、紋を描いた。そして言霊をつぶやく。クミルが聞いた。
「何をしているんだ?」
「法術で、この綱の性質を、凝らしている。」
「効果はあるのか?」
正直アシムには、分からなかった。しかし、何もやらないよりましだろう。
「ま、落ちたら、そんときは、そんときだ。先に行くぞ――」
そう言って、アシムは頼りない綱を引っ張り、具合を確かめると、意を決してのぼりはじめた。




