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亡国太子と近衛兵  作者: 佐藤周
5章 救出作戦
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3

ゲルツが貸してくれた馬は、実に上等だった。サルマ国の端から端まででも、この馬は走りとおすだろう。アシムにカネン、それにクミルは、その馬に乗って、夜の野を駆けた。

先導するのは、カネン。当然のように、カネンは赤髪のオジンの本拠地を知っていた。


「奴が根城にしているのは、古い砦だ。場所はここから半日ほどのところだが、川の流れに乗っていけば、もっと早く着く。おそらくメイさまは、そこに連れていかれたに違いない。」


そうして、アシムたちは夜更け過ぎ、樹木の少ない切り立った丘の上に構えられた、大きな砦にたどり着いた。

その周囲では、組を組んで男たちが巡回し、砦の上部では赤々とかがり火がたかれており、侵入してこようとするものを照らしている。

アシムたちは、その光に照らされる寸前で、馬を止め、話し合った。


――さて、どうするか。


ゲルツの言う通り、真正面から乗り込んでは、瞬く間に発見され、矢の雨に射られて、無駄に命を落とすだけだろう。


「それに」


と、カネンが言った。オジンが、この砦を根城にしているのには、理由がある。この砦は、いまでこそ拠点としての重要性を失ったために廃棄されたが、昔は難攻不落で有名な砦だったのだという。


「百人の兵士で、千を相手に、半年戦えた、とのことだ。」


切り立った丘を登るには、一本の桟道を進むしかなく、そこは守る側には見通しが良く、進む側には視界が効かない。

かといって、ほかの道を上ろうにも、木々が少なく、かがり火の光から隠れて登るのは、至難の業だ。上っている最中、矢でも射かけられたら、手も足も出ない。


「では、どうする。」


アシムとカネンは、頭を抱えた。こうしている間にも、メイが助かる可能性は砂時計の砂のごとく少なくなっていく。

そう悩む二人を見ながら、にんまりとクミルは笑った。


「それじゃ、おれの出番だということだな?」


カネンが少し、いやそうな顔をした。カネンはクミルを、貧相な体を持った、気の利かない男としか見ていない。アシムがなぜ、自分の持てる貴重な部下の枠をこの男でつぶしているのか、いまだに理解できていない。


「何がおれの出番、だ。いったいおまえに、何ができる?」

「おお、馬鹿にしてくれるじゃねえか。アシムは、おれが何ができるか知ってるぜ?」


クミルはアシムの方を見る。アシムは苦笑しながら言った。


「クミルは、本人が言うには……ケープの家から、近衛試験の解答を盗んできたらしい。」

「なんだと。そんなこと、できるはずがない。書記長の住む場所は、毎夜衛兵が巡回しているし、家そのものにも、警備上の防護の術がかけられている。」


クミルは、にやりと笑ってこたえる。


「それが、できるんだよ。水路を使うんだ。」

「水路も、封鎖されているはずだ。図面を見たことがある。」

「それは、公文書上での、図面、だろ。」


クミルは得意そうに語る。


「でもな、たいてい、そういう文書に現れない横穴が、ほられているんだ。おれの母ちゃんの仲間みたいな、盗賊どもの手によってな。でかい建物を作るときには、たくさんの人がいるから、そいつらが紛れ込むのは、簡単だ。そして――」


クミルは胸をそらして言う。


「おれは、その構造を見抜く、専門家だ。いや、おれの母ちゃんが専門家で、おれはその教えを受けたんだ。おれは公文書の図面に出ない、ショウの街のあらゆる抜け道、横道、潜入口を知っている。ケープのばあさんの家に忍び込むなんざ、朝飯前っていうことよ。」

「なんだ、だとすると、お前は。」


カネンは青い顔を、アシムとカネン夫顔を交互に見ながら、言った。


「――いや、お前らは、不正をして、メイさまの近衛になったのか。判事の言う通り、山賊、盗賊のやり方で――」


アシムは苦笑いのまま、クミルは慌てて言う。


「待て、そうじゃない……いや言う通りか……だが今は、それどころじゃないだろう? 」


クミルはあいまいにしてごまかすと、話題を変えた。


「あの砦で昔、籠城戦があると言ったな。それは乾季か? 雨期か?」


カネンはため息をついてから、答える。


「確か、乾季のときだ。」

「だとすると、そいつら百人は三か月間、雨の恵みなくして、過ごしたことになる。米は運び込めても、あの砦の大きさで、百人分が三か月暮らすための水を備蓄するのは無理だ。なら湧き水があるかと思えば、緑の少ないあの丘で、そんなものが出てくるとも考えづらい。」


カネンはいまいち、ぴんと来ていないようだったが、アシムはクミルの言わんとすることが分かってきた。


「だとすると、あと考えられる水脈は、地下だ。それも、ただの地下水脈じゃなくて、どえらい量の水が流れている必要がある――」


耳を澄ますと、セラル川から分かれた支流の流れる水の音が聞こえる。クミルはにやりと笑うと、その音の方を指さして、言った。


「あの川の音をたどっていこう。おそらく、あの砦でふんぞり返っている奴らの、足元をすくうことができると思うぜ。」


土日はやすみます

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