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何を、と言うまえに、ゲルツはかぶせて言った。
「まぁ、聞け、悪い話ではない。メイから、お前たちのことは聞いている。そして、いまこうしてみるとな、おれは実に、お前たちが惜しいと思う。このまま、無意味な自殺行為に走らせるにはな。」
ゲルツは前かがみになって、言い聞かせるように二人に語る。
「いいか、無駄に命を散らすな。どうせお前たち二人が、あの赤髪の砦に行ったところで、大量の弓に射られてハリネズミになるのがおちだ。そんなことをせずに、ここにとどまって、おれに手を貸せ。メイの弔い、いくさにはかりごと、すべておまえらにやらせてやる。」
この土壇場で何を言い出すかと思えば――とアシムは思ったが、ふと、横を見ると、カネンは熱心に、ゲルツの話を聞いていた。
「そのあとは、おれの側近になれ。悪い話ではないだろう。少しばかり、人の道に外れることだと思うかもしれないが、おれはショウの街の司長になる。その側近、自分の才能を、思うがままに発揮できるぞ。」
沈黙が下りた。
アシムはカネンを見たが、カネンはアシムに目もくれず、ゲルツの方ばかりを向いている。
――わたしの仕事はしょせん、亡国太子のお守りだ
そう嘆くカネンは、いまのゲルツの誘いに、心を動かされているのではないか、とアシムは思った。もしカネンが、ゲルツについたならば、アシムは一人でメイを探さなくてはいけない。あまりに情報が少ないいま、カネンの助けなしにそれは不可能だった。
やがて、カネンが言った。
「ありがたき言葉だと存じます。また古来、無くなった兄弟の家臣を引き取るということは常々あることであり、人道を外れるとも、思いません。」
「それでは、」
と、ゲルツが言おうとしたが、制してカネンはつづける。
「しかし、わたしはメイさまの配下であると同時に、恐れながら、教育を授ける役も戴いております。そしてわたしは、メイさまにこうお教えしました。主たるもの、貴人たるものは、その配下を保護し、配下たるものはその約定に基づき、主を命にかけても守るものだと。」
カネンは少し、微笑した。
「そう教えたわたしが、その約定を破る。それは、できぬことです。それは人の道、というよりかは、わたし自身の問題であります。もったいないほどの話ではありますが、わたしどもはこれより、メイさまの救出にむかいます。」
アシムたちは操縦士をゲルツのもとにあずけると、馬屋のもとへと向かった。その道すがら、アシムはカネンに声をかける。
「ずいぶんと熱心に、ゲルツの話を聞くもんだから、おれはあんたが、ゲルツについていくんだと思っていたがな。」
「ゲルツ「様」だ、アシム、不遜だぞ……それに。」
カネンはちょっと、考え込むようにして言った。
「わたしが話を聞いていたのは、見定めようとしていたのだ。」
「何をだ。」
「ゲルツ様の、お考えさ。いま、メイさまのお命は風前の灯火で、ときが過ぎるほどその命が危なくなる。しかし、いっときを超えれば、我々に状況は有利になる。」
「わかるように言え。」
「つまりは、ゲルツ様が城に戻り、メイさまがまだご存命だと分かったとき、あの人は動いてくれるのかを、見定めようとしていた。オジンと戦うには、相当の覚悟がいる。あの人は、自分の弟のために、果たしてその戦いに身を投じてくれるか、不安だった。」
なるほど、とアシムは思った。細かいところまでよく気が回る。
「結論は。」
「あの人は、助けてくれるだろう。あの場でああは言ったが、本来は、死んだ親族の家臣など捨て置くのが普通だ。色々としがらみが面倒だからな。それをあの人は、わざわざ自分から召し抱えられようとした。それは、メイさまのことを深く思われている証拠だ。」
そんなことを話しながら、アシムたちは馬屋につき――そして、そこで待っていたのは、ゲルツの近衛の、ソラだった。ソラは、その上品な微笑をたたえながら、言った。
「ゲルツ様が、我々の馬の中で、最上の駿馬をあなたたちにお貸ししろ、とのことです。」
カネンは、ほらな、というように、アシムを見た。
その後ろから、操縦士をゲルツの部屋まで運んだクミルがやってきた。
「おいてくなぁ! 今度こそ、おれも連れて行け!」




