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セラル川の岸、ショウの近衛たちの駐屯所で、騒ぎが持ち上がっていた。
第五太子、メイの姿が見えない。あとからやってきた太子や大臣たちはみな、何事もなく川を渡ったというのに、年少の亡国太子の姿だけが、船と丸ごと、消えた。
カネンとアシムは、セイケの警備兵を問い詰める。セイケの側も、船の操縦士がこつぜんと消えたので、わからないという。
夜目が利くクミルは、川の縁を走って、もしや太子が流れ着いていないかと探した。そして、一人の男が、息も絶え絶え、ずぶぬれになりながら、川から上がってくるのを見つけた。
「おい、大丈夫か。」
クミルはその男を介抱する。セラル川の流れは穏やかとはいえ、その底は深く、幅は広い。夜中にその川で泳ぐなど、馬鹿なことをする男だと思った。
しかし、その男は、意外にもクミルの名前を呼んだ。
「あんた……アシムか、カネンか、クミルって名前を知らねえか……」
「クミルは、おれだ。どうした。」
「坊ちゃん太子が、さらわれた……赤髪のオジンと、セイケとが、つながっていると、ゲルツ様が危険だと、坊ちゃんは、身代わりになって……」
そう言って、男は気を失った。
男を背負ってきたクミルが、アシムにそう告げると、アシムは自分の嫌な予感が的中したな、と思った。そしてすぐに、カネンに相談する。
「そうか。」
カネンは腕を組んで、そう言ったきり、黙り込んだ。アシムは焦れて言う。
「そうか、じゃないだろう。すぐ、このことをおおやけにして、メイさまを助けないと。」
カネンは首を振った。話はそう簡単にはいかないという。
セイケは、おおやけに知られた豪商だ。たかが船の操縦士一人の言葉で、その信用は揺るがない。それもその本人は、いまは気を失っている。
「それに」
今現在の状況を考えろ、とカネンは言う。
セイケに招かれ、周囲はその兵士が多い。ショウの街の衛兵も出てきているが、いまこの状態で、下手に騒ぎを起こして、セイケが牙を向いたら、どのような不測の事態が起こるかもわからない。おまけに第二太子の近衛たちは、セイケの側につくだろう。
「なら、どうするんだ。」
そうアシムが聞くと、カネンはしばらく考え込んでいた。それから、ぽつりと言った。
「このことを、伝えよう。」
アシムは呆れる。それをするなと言ったのは、カネンではないか。
「全員に、ではない。第一太子の、ゲルツ様に伝えるのだ。」
そう言うや否や、カネンは席を立つ。アシムとクミルは、慌ててそのあとを追った。
太子たちは、メイの発見と周辺の警戒が終わるまで、セラル川の岸に張られたテント内で待機していた。カネンはゲルツのテントにつくと、人払いを頼み、くだんのことを告げた。
「……なるほど。」
さすがにゲルツも、驚いているようだった。
「信じがたいことかもしれませんが……」
と、言いかけるカネンを制して、ゲルツは言った。
「いや、信じる。そういえばさきほどから、カサンの近衛であるはずのヨシンの姿を見ていない。あいつは腕もたつし、頭も悪くないのだが、少々子供じみたところがあるからな。おそらくカサンにたきつけられて、その陰謀とやらに加担しているのだろう。」
「では」
と、カネンは言うが、ゲルツは抑える。
「しかし、だ。それを知ったところで、いまのおれにはどうにもできん。それくらい、カネン、お前ほどの男ならわかろうというものだろう。」
ゲルツもカネンと同じく、セイケの兵が周囲に満ちているこの状況では、気づかぬふりをするしかない、という。ゲルツは言う。
「だいたい、メイがおれと入れ替わったのは、おれの命、と、いうよりも、次期司長としてのおれの身を案じての行動のはずだ。つまりおれがいま、自分の身を危険にさらすことは、メイの考えすら踏みにじる、ということになる。」
「それでは、どうするのです。おめおめと指をくわえて、黙っているというのですか。」
アシムがそう勢い込んで言うと、ゲルツが顔をしかめた。
「アシム、言葉に気をつけろ。誰が黙っていると言った? いいか。街に帰れば、おれはこの落とし前をきっちりとつけさせる。ただいまは、そのときではないと言っているだけだ――例の操縦士は、証人だからな。しっかりと保護しろ。」
「そのころには、メイさまは死んでいるだろう。」
「だろうな。しかし、それこそがわが弟が望んだことともいえる。あいつは、自らの命を捨てて、おれを守り、セイケの陰謀を暴いた。本望だろうさ。」
「そうですか、わかりました。」
アシムは内心の怒りを押し殺して言った。そして、奇妙に無表情なカネンの方を向く。
「行くぞ、カネン。時間を無駄にした。」
「そうか、行くのか。だが少し待て。おれも、お前たちに用がある。」
ゲルツはそう言って、怒りに満ちたアシムの目を受け止め、笑いながら言った。
「貴様ら、おれの近衛にならんか?




