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あくまでも、推測に過ぎない。ソンの話を聞いて、アシムが導き出した仮説の話だ。
この街に来て、いや、来る前に出会ったセイケの積荷に、アシムはどこか引っ掛かりを覚えていた。セイケほどの豪商が、農民に剣を持たせただけの警備で積荷を運ぶ。それは豪商の名をほしいままにしているセイケのやり方にしては、あまりにお粗末ではないか。
それも、あのとき荷車には番頭のウタが乗っていた。ショウの街のセイケの支店で番頭を務める男と言えば、小さな街の大臣ほどの格がある。
そんな男が乗っている荷車に貧相な警備などありえないことだ。もしもその番頭が拉致されて山賊に身代金でも求められたら、その損害だけでなく、セイケの名前に傷がつく。
しかし、こう考えればどうだろう。セイケが赤髪のオジンとつながっていて、オジンたちに武器などを融通するためにわざと、警備を薄くしていたとしたら。
思えば、アシムがセイケの荷車を助けたとき。オジンほどの大物が積荷の襲撃などというちゃちな仕事の陣頭指揮をとっていたのも変な話だ。しかし、もしもあのとき二人の農民を殺した後、セイケの番頭とオジンの間で何かしらの会談が行われるのだとしたら、筋は通る。
などと、アシムはふらふらと思考をさまよわせてから、ふと正気に戻って一人苦笑する。ばかな。セイケが山賊とつながって山賊どもは得をするだろうが、セイケに一体、なんの得があるというのだ。
しかし、アシムの中で、セイケに対する妙なひっかかりは取れなかった。
だから、『司』の詰め所に帰って、カネンから今晩、セイケの主催する宴に出席しろ、と言われたとき、アシムは不意打ちを食らった気分だった。。
「なんだその顔は……言っておくが、警護の任務だ。お前は、食えない、飲めない、騒げない。」
「いや、それは別にいいんだが、なんでセイケが宴を主宰するんだ? 」
「ご機嫌取りだろうさ。税を上げられないための。毎年、一、二回、セイケは『司』の司長さまを歓待するのが、習わしになっている。今回司長さまは、その招きに自分ではなく、太子さまたちを出席させた。人脈をつけてこい、ということだな。」
それからカネンは招待状を見ながら言った。
「今年は特にすごいな……セラル川の亀山に酒場を張って、宴会だと。」
セラル川とは、ショウの街から馬を一日走らせた場所に流れる、サルマの国でもっとも川幅の広い川だ。その広さは、対岸がかすんで見えるほどで、旅人が海だと勘違いすることもある。
深い水深と、それでいてゆったりとした川の流れは様々な生命をはぐくみ、セラル川は夜になると光を放つ虫や七色に変ずる魚などによって一種幻想的な光景を見せる。
そのセラル川の中には、亀山と呼ばれる小島がいくつか点在している。今回の宴ではその亀山にセイケが酒場を開き、存分に太子たちをもてなすのだという。
「それは、危ないんじゃないのか。賊に襲われたら、一網打尽だろう。」
「周辺を、セイケと、ショウの街の衛兵の連合軍で見張る。わたしたちも、川べりの警備所に詰める。」
「それじゃ、セイケがもしも、太子さまたちを害そうとしたら――」
アシムがそう言うと、ますますカネンは嫌な顔をして、
「下らんことを言うな。そんなことをしたら、セイケはどの街でも商売ができなくなる。言っておくが、セイケは下手をすると、そこらの街の司長よりも力を持っている。そんなかれらを中傷するようなことを、軽々と口にするんじゃない。」
カネンの言っていることはどこまでも正論だった。アシムは何か反論の言葉を探したが、結局は思いつかず、黙った。
しかし、メイについて街を出てセラル川に向かい、小舟で亀山に渡る太子たちを見送ったあとも、どこかもやもやとした不安がアシムの中から去らなかった。
その感覚は、理屈ではない。長い山野の生活の中で培った。野生の勘とでもいうべきもの。
そしてアシムの不安は、的中した。
土日はおやすみです。




