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第五太子メイが大聖堂の聖女ユミンを山賊の砦から、それもたった三人で救い出した、という話は、ショウの街のウワサ好きの住民たちの間でまたたくまに広まった。
メイはこれまで、どちらかというと――と、言うよりもほとんど、彼らの口に上らない地味な存在だった。
かれらの太子に対する話題と言えば、第一太子ゲルツと第二太子カサンの確執とか、第三太子ブロンの恐妻家っぷりとか、第四太子パラスの同性愛性癖に関する疑惑とか、そういうものばかりで、メイについては、亡国の太子、という名前以上のことは知らなかった。
だから、情報通を名乗りたい彼らは、一斉にその謎の太子について調べ始めた。
「ひどく優しい人らしい。」
というのが、はじめに集まってきた情報だ。年若いため、臆病なだけだ、という連中もいたが、いやあの優しさは天性のものだ、と言い張る人もいた。
「昔、何もできることはないですが、と言いながら、あの子はあたしの荷物を家まで運んでくれたんだよ。そんな太子が、ほかにどこにいるんだい。」
ある『自称』情報通――八百屋の女主人――の母親である老女が、そう話して、その情報源を得た彼女はいさみ喜んで、その特ダネを仲間に伝えた。
しかし、それをこころよく思わない、別の『自称』情報通――酒場の配膳係――は、知り合いの衛兵からこんな情報を仕入れてきた。
「いや、それはうわっつらだけで、実は粗野で、残忍な人らしいぞ。」
なんでもその太子は、昔は山賊だった男を配下に加えたらしい。しかしその情報を得た者にとって、「昔」山賊だったというフレーズはパンチに欠けた。だから、彼が仲間に情報を伝えるときは、
「なんでもその部下は、いまも陰で山賊の頭目をしているらしい」
と、伝えて、仲間の関心を買った。
「ウソよ、証拠はどこにあるのよ。」
と、『メイ=善良説』を唱える、対抗心に燃えた『自称』に言われると、かれは、
「そうでなくては、三人で砦を落とせるはずがない。その頭目が、部下を使って、シルシの部下を皆殺しにしたんだ。それに――」
と、言って、彼がほかに「証拠」として挙げたのは、最近聖堂にやってきた、パイ、ソンという名前のデコボコ兄弟。
二人の身元は、聖女の救出に役立ったということのほか、不明だという。通常そうした人間は街には入れないが、亡国太子の側近であるカネンは『司』の法の中から様々な例外的処理を見つけ出し、強引に二人の身元を保証した。
二人は僧兵の、真っ白な衣に坊主頭という格好でショウの街の聖堂の警備に立っている。
そして、その雰囲気が、とんでもなく、剛い。
「あれは、明らかに普通の生活を送ってきた人間が醸す空気じゃない。あいつらは山賊の仲間で、太子の手下なんだよ。」
「だけど、あの人たちのおかげで、インチキな商品を売る人たちがいなくなって、聖堂の人たちは安心したって聞いたわ。」
「その追い出し方も、棒を振り回して、しこたまぶん殴って追い出すって聞いたぜ。」
「だけどあの人たち、殴るときにお祈りをするのよ。『これは我々にとって善き行いです』って、八万の神に誓ってから――」
「結局、殴るんだろ。」
今日も彼らの、第五太子に関する議論はにぎやかだ。しかしそんなかれらにも、たった一つ、同意見となる話題があった。
――メイの活躍を、第二太子のカサンは快く思わないだろう
と、いうことだ。
「あのひとは、野心家だからね。」
「ああ、それは間違いない。」
司長の継承は、その時々の司長の長男によって行われる。しかし第二太子のカサンは、自尊心の強い男で、自らが兄弟の中で最も優れ、自らこそが司長に最もふさわしいと考えている。
第一太子のゲルツは、そんな弟を歯牙にもかけない。その態度が、余計にカサンの心情を逆なでし、母方のセイケ商会の後押しもあって、
――いつか、おれが第一太子になるぞ。
と、いう野心を秘めているというのは、ショウの街では公然の秘密だった。
そんなカサンは、太子の仕事の様々な場面で、成果を上げることに必死だった。その後押しをセイケは強力に行い、彼がこれまで上げてきた功績は、セイケの財力によるところが大きいのではないか、とささやかれていた。
実際、かれは軍事、外交、財政で様々な功績をあげていた。いくらかセイケの後押しがあるとはいえ、本人に資質がなければできないことだ。そんなカサンを陰ながら応援する『司』の重役は、少数ながらいた。
だから、今回のメイの思わぬ活躍と、武勇は、相対的にカサンの功績を色褪せさせるものとして、カサンは快く思わないだろう、というのが、大方の見方だった。
「これは、面白くなるぞ。その情報をいち早くつかむのは、おれだ。」
「いいえ、わたしよ。負けないわ。」
そう互いに啖呵を切り、酒を酌み交わし、ショウの街の『自称』情報通の夜は更けていく。




