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亡国太子と近衛兵  作者: 佐藤周
3章 山賊と聖女
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6

扉には、大きな錠前がぶら下がっていた。その奥から物音がして、アシムは声をかける。


「誰かいるのか?」

「……あなたは誰ですか?」


女の声が聞こえてきた。少し不安そうだが、案外にしっかりとした声だった。


「ショウの街の衛兵のアシムと言います。大聖堂から来られた治癒師の方ですか?」

「ああ、そうです。」


ほうっと、心から安心したかのように、息をつく音。


「ユミンと申します。助けに来てくださったんですね?」

「はい、そうです。鍵を開けてもらえますか?」

「すみません、こちらからはあかないようで……」

「そうですか。待ってください、いま、鍵を開けます。」


アシムはそう言って、錠前に『紋』を書く。そして、言霊をつぶやき――

『崩』の術は、弾かれた。


ならば、と思い、てじかに落ちていた石で鍵を叩いてみるが、アシムの手が痛むばかりで、鍵はびくともしない。


「馬鹿野郎! シルシの宝物庫の鍵が、てめえのちゃちな呪文や技で開くもんかよ!」


地面から首だけを出した大男のパイがヤジを飛ばす。そのちゃちな呪文に引っかかったのは誰だよ、と思いながら、アシムは扉の奥のユミンに聞いた。


「すみません、ずいぶん頑丈なもののようです。いったいどうして、こんなものの中に?」

「それが……」


ユミンが言うには、彼女がさらわれてきたのは、昨晩のこと。

はじめ、盗賊たちは彼女をあたりかまわず犯し、殺そうとした。しかし、彼女が聖堂で学んだ聖女だとわかると、


「こいつは、シルシさまの捧げものにしよう」


と言って、手を付けず、彼女は山賊が奴隷たちを『保管』しておく檻の中へと入れられた。

檻の中には、彼女のほか、一人の少女がいた。病にかかっているようで、発熱し、おそらく死んだらそのまま処分するつもりで、山賊たちはその少女を檻の中に入れていたのだろう。


「わたしも、治癒師の端くれですから。」


ユミンは、彼女を治療した。元が、生命力の強い子供だったらしく、すぐにその子供は元気を取り戻した。

そして、その子供の治癒が終わったころ、檻の外が騒がしくなりはじめた。


「どうやら、別の山賊たちが攻め込んできたらしくて……」


ユミンはただ騒乱の中でうろたえていた。そのまま檻の中にいては、遅かれ早かれ、どの山賊にかはわからないが、ユミンは殺されていただろう。


それを救ったのは、ユミンが助けた子供だった。

気が付いたら、檻の扉が開いていた。子供はユミンの手を引いて、ときに隠れ、ときにやり過ごしながら、ユミンをこの宝物庫の中に押し込むと、鍵を閉めたのだという。

そして今まで、ユミンは安全に、この場所に隠れていることができた。


「鍵は、あたしが持ってるからって、その子は言っていたんですけど……」


ユミンがそう言うと、後ろで兄弟が騒いだ。


「テダの野郎だ、あの野郎、油断ならねえと思ってたんだ!」

「女の子に野郎っていうんですかい? だけど、あいつも苦労してたんだよなぁ……」


微妙にかみ合わないパイとソンのコメントを聞きながら、アシムは扉の奥に声をかけた。


「少し、待っていてください。心当たりがありますので。」


砦の入り口から感じていた、視線。


アシムはその中に、害意がないのを感じ取って、放っておいた。しかし同時に、不思議でもあった。いったい誰が好き好んで、こんな屍臭漂う場所にこもって、やってくるものを観察するのか。


 さっきの話で、分かった。視線のもとは、治癒師のユミンが助けた子供だ。やってくるものが、ユミンの味方かどうかを、見定めているのだ。

 

宝物庫のある部屋から離れてしばらくすると、再び、誰かがアシムのことを観察し始めた。アシムは虚空に向かって話しかける。


「おれは、ショウの街の第五太子の近衛兵だ。何なら太子本人も、ここにきている。砦の前で待っている人のよさそうな少年がそいつだ。おれはどうかわからないが、そいつはどう見たって、賊のたぐいにゃ見えんだろう。」


沈黙。アシムはつづけた。


「おれたちは、あのユミンっていう――娘? たぶん娘なんだろうが、を助けに来た。なぜならユミンは、おれたちショウの街の治癒師としてやってくるはずだったからだ。だから、宝物庫の鍵をくれないか。」


するとしばらくして、どこかで、ちゃりん、という音がした。音の方へと行ってみると、ある部屋の片隅に、おおきな鍵が落ちていた。

アシムはその鍵を拾い上げながら、言った。


「何ならお前も、助けてやるぞ。親はどこにいるんだ? 街の輸送隊に言って、その街まで送るよう口利きしてやってもいい。」

「……親は、いないの。ちいさいころに売られて、ずっとここで、飼われていたから。」


ふと、声が聞こえた。子供の声だ。その方向を振り向くと、物陰で小さな影が、移動するのが分かった。


「街に入りたいけれど、入る当てがない。」


また別の方向から、声。アシムはその出元を追うのをあきらめて、こたえた。


「そうかい。ただ経験上、ずっと山野の生活は、疲れるぞ。街でだれか庇護者を探して、そこで暮らす方が、ずっと楽だ。」

「だれかって、だれ?」


また別の方向から。少し、声は遠くなっていくようだった。


「……さぁ、わからん。言われてみれば、見知らぬ子供を庇護する奴なんかいないかもしれないな。おれは無責任なことを言っているかもしらん。」


アシムがそう言うと、急に気配は、消え去った。

あの子供、おれの同類か。アシムはそう思いながら、鍵を手にして、宝物庫のある部屋へと戻った。


土日はおやすみします。。

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