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ゼルテア帝国の切り札

 ……何を言っているんだろうか、この人は? あれだけ役に立たないとか言っておきながら、少し力を見せれば手のひらを返す。まあ、ある意味必要な能力かもしれないけど、さすがにあれだけ言われて、はい、わかりました。とはいかないと思うんだけど。


 隊長の後ろについていたエステルさんと師匠さんも驚いた顔をしている。ドワーフの人は無表情で何を考えているかわからないけど。


「……あれだけ倒したんだから、僕らはもう必要ないと思うけど?」


 僕が隊長にそう言うと、体調はふん、と鼻で笑う。イラッとしたが、何か話し出す雰囲気だから黙っておこう。


「そんなもの全滅させるまでに決まっているだろう。まだ半数以上も残っているのだぞ」


「残りはあなたたちが受け持ってください。あの魔道具が何かわかったら対応できるんですよね? 今は川に沈んでいますが、見つけ出して調べればいけるはずです。それなら大丈夫でしょう」


「ふん、それをすればこちらの軍に被害が出る。それならお前が1人で挑んだ方が良いだろう」


 隊長は僕に向かってそう言う。こいつ、何でそこまで手伝わないといけないんだよ。あぁ〜、この隊長をぶん殴りたいけど、亜人族との友好のためには……我慢しよう。まず落ち着こう。すう〜、はぁ〜、すう〜、はぁ〜。よし、落ち着いた。


「わかりました。ゼルテア軍の相手はしますが、まずは伯爵領へ戻らせて欲しい。早く戻るって伝えているんで」


「ならん! なぜ敵を助けるためにこちらが待たねばならんのだ! ゼルテア軍を倒した後に一番最初に攻め入る街だぞ。軟弱な人族なぞ、助けても無駄だ!」


「……その軟弱な人族に勝てなくて、救援を求めたのはどこの誰ですかね?」


「なんだと?」


「人族は確かに他の種族に比べたら弱いかも知れない。でも、それを補う為に、色々と考えたり作ったりするんだ。その結果が今回の戦争に出ているんじゃないのか?」


 この人は何を勘違いしているんだろうか。あれ程まで惨敗しておきながら、人族を弱いと決めつけて意味がわからない。何処からそんな勘違いが生まれるのだろうか。


「こ、このぉ! 言わせておけばぁ!」


 こいつ、剣を抜いたらただじゃおかないよ。僕も腰に携えるレーヴァテインを掴もうとした時、


「止めんかい、ばかもん!」


 とドワーフのおじさんが、隊長を殴り飛ばした。隊長は避ける暇もなく、顔面を殴られ壁まで吹き飛ぶ。うわぁ、頭から突っ込んでるよ。


「全く、ジクリートめ。くだらん事で争いを起こしおって。全てこの小僧が言う通りじゃ! 我々は人族の能力に負けているんじゃ! それもわからずに何が勝てるだ、ばかもんが!」


 ……無口かと思ったけど、そんな事なかったね。話し出すと止まらないタイプかな? そんな事を考えていたら、こっちを向く。なんだろう?


「せっかく救援に来てもらったのに、この馬鹿が申し訳ない事を言った。儂が代わりに謝ろう。ただ、こやつの言う通りまだ、儂たちだけではあの軍勢に勝てるとは思えんのじゃ。まだあの魔道具は残っとるようじゃし、我々はまだ解決策も見つけておらんからのう」


「それなら少しの間は大丈夫ですよ。今回のゼルテア軍の将軍はもう殺しましたから」


 僕がそう言うと、ドワーフのおじさんと師匠さんが驚いた表情を浮かべる。エステルさんは、ただ凄いと褒めてくれる。やっぱり子供みたい。


「なんと、将軍まで倒してくれておったのか。それは有難い。しかし、もしかしたら奴らが出てくるかも知れんのお」


「奴ら?」


「うむ。殆どの戦争は、ゼルテア軍を率いるのは将軍級なのじゃが、極稀に戦場へ出てくるのじゃ。それぞれが皇帝に従い、皇帝よりゼルテア帝国秘宝の魔武器を貰い、皇帝と同じ『帝』を名乗る事が許された四帝がの。普段は王都の防衛と、皇帝の警護に就くため、滅多に出てこんがの」


 へぇ、そんな人たちがいるんだ。知らなかった。まあ、今は関係ないし、伯爵領へ戻ろう。早くお風呂沸かさなくちゃ!


 ◇◇◇


 ゼルテア帝国王宮


「も、もう一度言え! ゼルテア軍はどうなったのだ!」


「だ、第一軍は橋の崩落に巻き込まれ、生死が不明。ガフリス将軍は戦死した模様です」


 この報告に絶句する大臣たち。なんとも間抜けな顔だ。この程度で怯えおって。


「ど、どうなされます陛下? 隊長がおらぬのでしたら一旦引かせるのも手かと」


「お前は、そのための食料や水、必要な物を手配してくれのだな?」


「い、いや、その、あの」


 ふん、無理なら言うでないわ。しかし、まさか開戦3日で負けるとはな。苦戦するとすれば亜人国の首都辺りだと思っていたが。


昨日までの報告では、亜人国側は手も足も出なく、必ず勝てるとほざいておったが。何か起きたのか? 橋の崩落。これが自然に起きたものなのか、それとも人為的なものなのか。


「お前、橋の崩落とは、どの様に起きたのだ」


「はっ、報告によりますと、空に突然巨大な火の塊が100近く出現し、それが全て橋の上に降り注いだそうです」


 ほう、突然出現したとは魔法なのか。しかもあの巨大な橋を落とすほどの。くっくっく。イレギュラーか。これは面白い。


「どうされます、陛下」


奴らの方にそれほどの実力者がいるのならば、こちらも本気で行こう。


「氷帝メディスよ。前へ出ろ」


「はっ!」


「お前は今から亜人国ディスパーニャへ向かい、奴らを蹂躙せよ」


私がそう言った瞬間に、大臣どもが騒ぎ始める。うるさい奴らだ。


「はっ! 皇帝陛下の仰せのままに!」


「剣帝グロウよ」


「はっ!」


「貴様は兵1万を率いてグランディークの勇者を殺せ。そして神具を奪ってくるのだ」


「はっ! 仰せのままに!」


「まさか四帝まで向かわせるなんて……」


 今までそこまでだったが、少し楽しくなってきたぞ、イレギュラーよ。クックック! やはり思い通りには行かんもんだ。

よろしくお願いします!

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