夜の訪問
僕が女性たちを助けて3日が経った。この3日間はマリアさんたちと侍女たちや元夫人に、伯爵の屋敷で、連れ去られていた女性たちを見てもらった。僕や男が近づくと泣き出してしまう人もいるからね。
その間僕は何をしていたかって? それはもちろん、お風呂を沸かしていたさ。この伯爵邸にある風呂はまあまあの大きさで1回に10人ほどが入れるほどの大きさだ。
そのお風呂に入るために、水を出す魔石に僕は魔力を注いで水を溜め、溜まった後に水をお湯にするために温める魔石に魔力を注ぐ。それを3日間繰り返していた。
普通の魔力量ならこれのどちらか片方で魔力が尽きてしまう。だから貴族などはこのお風呂専属で雇ったりする貴族もいるぐらいだ。
僕もみんなの手伝いをしたかったのだけれど、やっぱりまだ男が近づくと恐慌状態になる子もいたので、なるべく近づかないようにした。
マリアさんが言うには、肉体的に傷付いているよりも、精神的に傷付いている方が多い様だ。それもそうか、男に無理やり性の捌け口にされ、男性に対する恐怖心、何も出来なかった無力感。様々な感情があるだろう。
僕がそんな事を目を瞑りながら考えていたら
「どうしたのですか、エルさん?」
と声が聞こえる。僕は目を開け声の聞こえた方を向くとそこには、
「?」
首を傾げるマリエちゃんが立っていた。なぜマリエちゃんがいるかと言うと、結局僕がマリエちゃんを引き取る事になったからだ。
理由はやっぱり、父親のあの一言だろう。僕が屋敷から屋台のおじさんのところへ戻って、連れ去られた女性をみんな助けた事を知らせると、その被害があった家族はみんな泣いて喜んでくれた。もちろん屋台のおじさんもだ。
後日その家族が屋敷に行くってことで話は終わったのだが、マリエちゃんはどうするのかって話に、屋台のおじさんとなった。マリエちゃんの意見としては、もう家に戻りたく無く僕について行きたいと言う。初めは説得もしたんだけど、もう親に会いたくないの一点張り。
屋台のおじさんは自分が引き取ってもいいが、同じ街の人間だ。何処かで顔を合わせるかもしれないと言うと、絶対に嫌と言う。
なので、結局僕について来る事になったのだ。今では僕の身の回りの世話をしてくれる様になった。
マリアさんたちに会わせた時は、物凄く気まずい雰囲気になったけど。みんなに睨まれて針のむしろだったよ。カグヤには踵で足を踏まれるし。何とか事情を説明したら今度は物凄く泣いてくれて、今ではみんなの妹みたいなポジションにいる。
「いや、少し考え事をしていただけだよ。それじゃあみんなのところへ行こうか」
「はい!」
僕は屋敷の中にある応接室に向かう。応接室に入ると中には
「エル、遅かったじゃない?」
すでにマリアさんたちが来ていた。中にはマリアさん、ミルさん、クラリスさん、カグヤに伯爵の元夫人のシルさん、後エステルさんが来てくれている。
「ごめんごめん。それじゃあ今後の話をしようか。まりあさん、女性たちの状態はどう?」
「みんな少しずつ正気を取り戻しつつあるって感じね。知らない男に会うとまだ辛い人もいるけど、家族なら大丈夫そうだわ。あと、あの地下に長くいた子の中には体調を崩している子もいるから様子見ってところね」
あの劣悪な環境じゃ病気になる子もいるか。これは時間をかけて治すしかないね。治療魔法は傷に対しては効くけど、病気には効かないからね。
「それじゃあ、ミルさんとシルさん。食料はどんな感じですか?」
「そうですね。この屋敷の食料庫は軍に全く手をつけられていなかったので、街中に均等に配ったとしたら持って1週間ってところですわ」
「これは保存食なども含めての日数」
「……なるほど、この近くの領地から分けてもらうというのは出来ますか? もちろんお金を払ってですが」
「それは難しいと思いますわ。食料を集めているのはこの領地だけでは無いと思いますので」
うーん。どうしようかな。今この領地は伯爵を監禁しているのでシルさんが代理で領主をしている。この街の、みんなには僕に脅されて従っているという事にしてもらう様、伝えている。ゼルテア軍に何か言われた時にこの街に被害が出ない様に。
シルさんも意味がわかっているので、申し訳なさそうだったが頷いてくれた。僕はその気持ちだけで十分だよ。
これからの事をみんなで考え話し合いをしていたら既に数時間が経過していた。少し話し過ぎたね。外も暗くなっている。
「もうこんな時間だ。そろそろお風呂を沸かしに行かなきゃ」
と僕が立とうとした時に廊下が騒がしくなる。どうしたんだろうか? そしてドタドタドタドタ! と廊下を走る音が近づきそしてドアが思いっきり開かれる。
「シル様! 大変です!」
「騒がしいですわね! エルさんの前ですよ!」
いや、僕は気にしないでください。
「す、すみません! でも大変なんです! 早く来てください!」
「だから何があったのですか?」
「て、帝都から、今回の遠征の後継として、四帝の1人氷帝様がお見えになりました!」
「なっ!」
その名前を聞いたシルさんの顔色がみるみる青くなっていく。四帝確かドワーフのおじさんが話していたゼルテア帝国の最強の4人の事だよね。
「……わかりました。すぐに向かいます。エルさんたちは早くお逃げください。私が時間を稼ぎますので」
そう言い、何かを決意した顔で部屋を出るシルさん。
「それでどうするの?」
僕が閉められた扉を見ていると、マリアさんが聞いてくる。
「それはもちろん……」
僕はニヤっと笑いながら答えてあげた。マリアさんは仕方ないわねって感じで納得してくれる。さぁ、行こうか。
よろしくお願いします!




