亜人国ディスパーニャ
亜人国ディスパーニャ。
大陸の端に位置し、西側は海、東側は円を描くようにこの海から繋がっているメロン川がゼルテア帝国との国境となっている。その為ディスパーニャへ行く為には橋を渡らなければならない。全長1キロメートル、幅20メートル程の大きな橋「ゲンニクル」を。この名前の由来は、橋を考案したゲンニクル・ラッセンという亜人からきているらしい。そしてその橋が今の戦場となっている。
僕たちは、ローナさんに頼まれた後、直様ディスパーニャへ行く事となった。父上たちはローナさんがベルヘイムに連れて行って保護してくれるとの事。アルやビルたちも一緒だ。これで安心して行ける。
ディスパーニャまでは一旦ベルヘイムに戻って別の門を使わなければならない。その為ベルヘイムでみんなとお別れだ。
父上は笑顔で送ってくれたが、母上には泣かれてしまった。父上に行き先はわかっているんだから大丈夫と慰めてくれてようやく見送ってくれた。アルやビルたちも残るそうだ。俺たちじゃあ足手まといだからと。
そしてみんなに挨拶をしてディスパーニャへ来たのが、案内役のエステルさんに、僕、マリアさん、ミルさん、クラリスさん、そして何故かカグヤだ。リュウジは奥さんとベルヘイムに残るそうだ。足もまだうまく動かせないみたいだし。
何故勇者が付いてきているかというと、僕たちを助けたからだ。討伐命令が出た時に、2人はマコトに反論し、もう少しで捕まるところだったらしい。そこを陛下が何とか止めたのだが、マコトには目をつけられたとの事。今のマコトに何を言っても話を聞かないほど暴走しているから、何を言っても無駄だとリュウジが言っていた。その為ベルヘイムに付いてきたのだ。ローナさんも良いと言っていたので大丈夫だろう。
それなのに何故かカグヤは付いてきた。僕はカグヤを睨む。
「な、何? 顔に何かついてる?」
と的外れな質問をしてくる。質問をしたいのは僕の方だ。
「なんで付いてきた? ベルヘイムでリュウジと一緒にいればいいものを」
と僕が言うと、カグヤは顔を俯かせる。
「だって、あなたに助けられっぱなしは嫌なのよ。今度は私があなたを助けるわ!」
と背に背負う弓を持つ。前使っていた弓はザガンに木っ端微塵にされたそうなので、その前に使っていた弓を持ってきたそうだ。弓は業物らしいが特に能力の付いていない弓らしいが、重要なのは矢筒だ。この矢筒は魔道具らしく、魔力を通すと矢ができるらしい。前の弓みたいに形や硬さを変える事はできないが、魔力がある限りは撃てるらしい。弓兵には喉から手が出るほど欲しいものだね。
「……ついてくるのはいいけど、危なくならないでね。助けるのが面倒だから」
と僕が言うと、カグヤは何故か嬉しそうに返事をする。それを聞いていたマリアさんたちが溜息を吐く。な、何さ? そんな事を考えていると、
「さあ、行くよ! みんなが僕たちを待っている!」
とエステルさんが先を進む。それにみんなで付いて行く。ここはゲンニクル近くの砦から、1キロほど離れた森の中らしい。ここなら人目がつかなくて移動ができる為、ゲートがあるのを知っているのは、族長クラスのみらしい。エステルさんは案内の為、特別に教えてもらったとの事。
そして走る事数分。ゲンニクルの近くの砦までまで辿り着いた僕たちが見たのは、まるで地獄絵図の様だった。橋はまだ架かっていたが、あちこちに何かが爆発した後みたいに穴ができ、ボロボロになっている。その上に倒れる生き物だったもの。もはや原型を留めていない。川は赤く染まっている。マーメイドや橋から落ちた者たちだろう、あちこちで浮かんでいる。もう助からないだろう。
ディスパーニャ軍はまだ辛うじて耐えているが、ゼルテア帝国軍の攻撃に対応できていない。……なんだあれは? 橋の中央辺りまで進んで来ているゼルテア帝国の1番前の列に2メートル程の筒が並べられている。全部で100ほどだろうか。そして先っぽから魔力の固められた弾が発射される。命中率は余り良くないのか、的外れなところへ飛んでいく事もあるが、地面にぶつかった瞬間轟音を轟かせる。不思議に思った僕はエステルさんに聞く。
「エステルさん。あの筒は何なんだい?」
「……ゼルテア帝国が作った新しい魔道具らしい。魔力を込める事で、あの筒の中から魔弾を発射できるんだ。向こうは奴隷を犠牲にして、魔力を貯めるからかなりの威力の魔弾を放ってくる。ディスパーニャの兵士たちが魔力障壁を発動しても、呆気なく壊されて、みんなが……」
話している途中で思い出したのか、涙を流し出すエステル。辛い話をさせてしまった。そしてこっちの攻撃は向こうの魔道具らしき盾から出る魔法障壁で防がれる。そして橋の上を歩く黒い部隊。全部で1000人ほどだろうか。真っ黒な鎧を頭まで着けている。
「エステルさん、あれは?」
「あれもわからないんだ。ドワーフたちが言うにはあれも魔道具らしいんだけど……。しかも力には自信のあるドラゴノイド部隊があいつらに負ける程の力を持っているんだ。鎧には盾と同じ能力があるみたいだし」
中々厄介だね。でも取り敢えず中へ入ろう。ここの隊長に会わないと。砦の前ではエステルさんが何か見せると兵士たちも中へ通してくれる。なんだろう? そして中へ入ると、中も悲惨なものだった。血塗れのエルフ。尾のないマーメイド。体の一部が無いドラゴノイドととても悲惨なものだった。みんなが懸命に治療をしようとするが、辛うじて生きながらえているという感じだ。
「うぅっ……。さあ、いこう」
その中でも、一生懸命任務をこなそうとするエステルさん。僕たちはただエステルさんの小さな背中を見る事しかできなかった。
そして歩く事数分。大きな扉の前へとやってきた。前には兵士が2人立っている。その兵士にエステルさんが、また先ほど外の兵士に見せた様に何かを見せる。すると兵士たちは喜びの表情を浮かべ、中へ入れようとしてくる。そして中へ入ると
「ここを放棄して撤退する! これは隊長命令だ! 意見は変えん!」
「何を馬鹿な事を言っているのよ! ここを取られたら首都の目と鼻の先に敵軍がいる事になるのよ! それにこの辺りに住んでいる民はどうするのよ! 見捨てるっていうの!」
「そうだ。国を守る為には、民には犠牲になって貰う」
中では白銀の短髪で2メートル近くある男に、左目の部分に包帯を巻き、左肩から先の無いエルフが反論している。そしてエルフの前に座るドワーフの男は目を瞑って聞いているだけだ。そこに
「グラノフ隊長、師匠! エステル、ただいま戻りました!」
エステルさんが入って行く。その声にようやく僕たちが入ってきたのがわかったのか、こちらを見る3人。
「エステル、無事戻って来たわね! ローナには会えた?」
「はい、何とか会えました!」
エステルさんと親しそうに話すエルフの女性。この人がローナさんの親友でエステルさんの師匠か。そしてみんなが僕たちを見てくる。どう話だそうかな。
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