落橋
僕たちを見る目はそれぞれだ。隊長さんは明らか迷惑そうな雰囲気。エステルさんの師匠さんは喜んだ雰囲気。ドワーフの人は、見定める雰囲気。
「それじゃあ、エステルの連れてきたのはその人たちと軍を連れてきたのね! 何人ぐらいいるの?」
とエステルさんの師匠さんが聞いてくる。そんなキラキラ目をされたら言いにくい。僕達だけっていうのが。
「この人たちだけだよ、師匠!」
エステルさんは笑顔で言うが、それを聞いた師匠さんは、笑顔のまま固まってしまった。それはそうか。援軍を期待してローナさんの元へ送ったのに、やって来たのが僕たちを4……5人か。カグヤを忘れていたよ。その5人だけで、しかもかなり若い人たちだけなんだから。
「ふん。だから魔族なぞあてに出来んのだ! さあ、わかっただろうクララ。今直ぐ退却だ。このまま兵士たちを無駄死にさせるわけにはいかん!」
と隊長さんが叫ぶ。師匠さんも、魔族の援軍を期待していたのか、それが来ないとわかると、黙って座り込んでしまった。ドワーフの人はまた目を瞑ってしまう。それを見ていたエステルさんはオロオロとみんなを見るがみんな黙り込んでしまっている為、何も言おうとしない。その瞬間。
ドガァーン!
と砦の壁に何かがぶつかる音がする。そして廊下から、兵士たちの叫び声が聞こえる。例の魔弾が砦に当たったのか。
「さあ、さっさと退却の準備をするぞ!」
「で、でも、ここを渡せば今後の戦いが!」
「その為には兵士を減らすわけにはいかん! ただでさえ少ないというのにこれ以上減らしてたまるか! 貴様もわかっているのだろうが、クララ!」
う〜ん。このままじゃあ、平行線のままだ。隊長さんは兵士がこれ以上減る前に、退却し体勢を立て直したい。師匠さんはこの砦を守りたい。確かに兵士がいなければ戦うことは出来ない。ここを引いて砦を取られれば、ディスパーニャへの進軍を容易にしてしまう。
どちらも正しいのでドワーフの人は何も言わないのかな? 本当は向こうが頼んでくるまで言うつもりはなかったんだけど、エステルさんが可哀想だ。目にいっぱい涙を溜めて我慢しているしね。僕はエステルさんの頭をぽんぽんと叩く。エステルさんは涙目で見上げてくるので、僕は微笑む。そして
「本当に引くんですか?」
隊長さんを見据えて僕は言う。
「なんだと?」
「本当にこのまま首都まで下がって勝てるんですか?」
「当たり前だ! ここで負けたのは、あの新兵器を持ち出してきたからだ! あれが何かさえわかれば、幾らでも対応できる!」
どれだけ自信満々なのだろうか。今対処が出来ないのに、数日ほどで対応策が出てくるとは思えない。この人はこれ以上意見を変えないだろう。だから僕は師匠さんを見る。
「ここを守りたいですか?」
「当たり前よ! でも、このままじゃあ、ジクリートの言う通り兵士を減らすだけで……」
と悔しそうに呟く。この人も戦場に出たのだろう。そしてあの魔道具の魔弾を食らって、片腕が無くなった。それでも勝ちたいという気持ちはある。
「僕がなんとかしましょう」
「え?」
僕がそう言うと、顔を俯かせていた師匠さんが顔を上げる。隊長さんは怪訝な顔をし、ドワーフの人は片目だけ開けて僕を見てくる。
「その代わりと橋はどうなるかわからないので。直ちに橋の上、橋の近くにいる兵士を退かせて下さい」
「え? え?」
「早くお願いしますね。マリアさんは治療を手伝ってあげて、ミルさんは退却の手伝いを、クラリスさんは、いつも通り、何か見えたらエステルさんのそばで指示してあげて。カグヤは……誰かの手伝いで」
「私だけ、扱い酷くない!?」
怒るカグヤ。仕方ないじゃないか。何ができるかわからないんだから。
「ふん、何をするかわからんが勝手にしろ。こっちは元々兵士を引かせるつもりだったのだ。その後で死んでも知らんからな」
そう言い、隊長さんは部屋を出て行く。退却の指示を出しに行ったのだろう。僕が扉を見ていると、
「あなた、どうするの?」
と師匠さんが聞いてくる。なので僕は笑顔で、
「橋を落とします」
「……は?」
……そんな変な事言ったかな? だって、砦には近づけさせたくなくて、兵士を退却させたいなら、これしか方法は無いと思うんだけど。僕が兵士の相手をしてもいいけど、時間かかるしね。それなら橋を落とした方が早いし、進軍も出来ないだろう。
「まあ、見ていて下さい」
と僕は部屋を出て行く。あの大きさの橋を落とすのだから、両端を破壊して落とすか、それとも、空から撃ちまくって破壊するか。どうしようか。そんな事を考えていると、あっという間に橋についた。歩いて数分ほどだからね。
それにしても酷い。血に濡れた上に土埃で黒くなっている。生き物だったかどうかもわからない。既にディスパーニャ軍はみんな退がったようだ。姿が見えない。
「とりあえず、レーヴァテイン。どれぐらいの魔力だったら橋が落とせる?」
と確認する。あまり多過ぎて、被害が大きくても駄目だからね。
『……契約者の5分の1程でもあれば大丈夫でしょう』
「了解。それじゃあ注ぐよ」
そして僕が魔力を注いだ瞬間
『あぁん! そ、そんな勢いよく注いだら、う、ぅぅん! だ、だめですぅ』
……なんでそんな声を出すんだよ。今までそんなことなかったのに。そして注ぎ終わったので話しかけてみる。少し嫌だけど。
「レ、レーヴァテイン、大丈夫?」
『……しょう』
「え?」
なにか言ったけど聞こえなかった。
『燃やし尽くしましょう! 目に見えるもの全てを燃やしましょう! ヒャッハーです! ヒャッハーしましょう!』
なんかいつもと違うんだけど! なんでこんなにテンション上がってるの!? どうしよ。どうしたら元に戻るのだろうか。……僕が魔力を注いでこうなったなら、使い切れば元に戻るのだろうか。……考えていても仕方ない。
「それじゃあいくよレーヴァテイン」
『はい! 燃やし尽くしてください、契約者!』
物凄くやりづらいが、仕方ない。
「いくよ、ヴォルカニック・メテオ」
僕はレーヴァテインを天にかざし発動する。すると直径10メートルほどの高密度の焔の塊が空中に100個ほど浮かび上がる。これは中々。レーヴァテインから教えてもらった技だけど、広域殲滅用だねこれは。敵軍も空中に浮かび上がる焔の塊を見ている。
「降り注げ」
そして僕は敵軍のいる橋へとレーヴァテインを向ける。それについていくように空から焔の塊が橋へと降り注ぐ。落ちた瞬間爆発。轟音を轟かせ、全てを粉々にする。鎧を着た兵士や、盾を持った兵士は魔法障壁を張るが、全く意味をなさず粉々へとなり、潰される。うん、世界の終わりみたい。
全ての塊が降り注ぐと、橋の中へと入っていった焔が、最後の爆発をする。そして、橋は落ちた。それもう木っ端微塵に。
『流石です、契約者』
あれ? 元に戻っているよ。良かった。
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