27.顛末②
本日、2話目です。
「明日、村に帰るんだろ? スティーブもダーリンくんも当事者だし、今回の件で分かっていることを伝えにきた」
宿の部屋でスティーブとフェリクスはベッドに腰掛け、ミゲルは椅子に座る。
「まず、副団長だが、あの両替商以外にも複数の店と繋がりがあった。繋がりのあった店はほとんどが軽犯罪に手を染めていた。横領はその一部を使って行われていた。騎士団に納品する品物の見積書を実際の商品より高く出し、差引分を副団長と店で分けていたようだ。調査中だが、最近はかなり粗悪な品が納められているケースもあり、悪質だった」
ミゲルはここで一旦黙り、スティーブをじっと見てきた。
「どうした?」
「副団長に何でそんなことしたんですかって聞いたんだよ。そしたらきっかけはお前だった」
「俺?」
「お前が引退した時の、書類の改ざんと金の細工、あれ、副団長がやってたんだ」
ミゲルが静かに告げ、スティーブは目を見開く。
「副団長が……?」
嫌われてはいたが、そこまでされる覚えはない。驚くスティーブにミゲルは淡々と続けた。
王都に帰りたいのに願いは叶わず、くすぶっていたリアスの元に配属されてきた新人騎士。
彼は見習い時代の成績がよく、王都での活躍を見込まれていたのに、自ら田舎を志願してわざわざやって来た平民上がりの騎士だった。スティーブである。
当時のリアスは上から内々に、スティーブはその内に中央に返すことになるだろうからしっかり鍛えてやってくれとも言われていたらしい。
当然、面白くはなく、リアスは上には厳しくしていると言い訳をして、問題にならない程度にスティーブを差別した。
そうして迎えたスティーブが配属されて六年目のある日、王都の騎士団から来年はスティーブをこちらに呼び戻すとの報せがきたのだ。
何でも、異例のスピード出世をした若き中央の副団長がスティーブを是非部下にと望んでいるらしい。
リアスのイライラは頂点に達する。
自分は田舎でくすぶり続けているというのに、異例のスピード出世を遂げたという中央の若き騎士も、そんな男に望まれるスティーブも全て気に入らなかった。
そうして、むしゃくしゃした気持ちのままリアスはスティーブを陥れ、計画と違った形ではあるが穏便にスティーブを騎士団から追い出した。
すっきりしたリアスだが、この書類の改ざんをもっと上手くやれば小金が稼げると思い付く。
リアスは懇意にしていた少々荒っぽい店に話を持ちかけ、少額の上前をはねるようになった。王都に帰れないストレスの捌け口だったらしい。
それを何年も続け、店と切っても切れない仲になってしまった時に店側から脅迫されるようになる。
少額だった横領はどんどん高額になり、家は彼らの根城となっていく。ここ最近は捜査への手心も要求され、やりたい放題されていたようだ。今回も、両替商より店の周囲の騎士達の対処とカフスボタンの金の回収を命令されていた。
「ーーというのが、ことの顛末だ」
ミゲルが話終え、スティーブはがりがりと頭をかいた。
情報量が多い。
中でも、あの引退のごたごたが全てリアスの所業だったということに頭の処理が追いつかない。
(嫌われているというよりは、恨まれていたということか)
フェリクスを連行した時に向けられたリアスの目を思い出す。あれは積年の恨みがこもったものだったのだ。
(えー、でも、俺は悪くねえよな?)
平民のスティーブからすれば、騎士になれたことで十分幸福だった。出世を望まないのはスティーブからすれば当然だったし、実家の近くで働きたいのも自然な流れだ。
(逆恨みだよな)
謂れのない非難だと思う。
よい気はしないが、しかし、あの時の犯人が分かったことにはすっきりした。
そして自分が王都の騎士団に求められていたことは意外としか言いようがない。
求めた中央の騎士とやらは誰だろう。スティーブを知っているということは同期か近しい先輩だが。
(…………あー)
そこで一人だけ、異例のスピード出世をしそうな同期の男に思い当たり、それについては納得する。おそらく八百長の御前試合をした侯爵家出身の同期だ。実力と家柄的にあいつしかいない。
(十二年前の時点で副団長になってたのか……すげえなぁ)
素直に感心していると、ミゲルが心配そうにこちらを見てくる。スティーブは同期から副団長へと気持ちを切り替えた。
「スティーブ、大丈夫か?」
「わりと大丈夫だ。十二年も前のことだしな。誰に恨まれてたのか分からなくて気持ち悪かったから、相手が分かったのはよかったよ。なんか、へー、そうだったんだ、くらいの気持ちだ。その後のことは、阿呆だなとしか言いようがないが」
騎士団の金の横領や、そこからの脅迫はリアスの身から出た錆びだ。もはや自分とは関係がない。
「それだけか? もっと怒るとかないのか? 王都の騎士団で出世できたかもしれないんだぞ? ゆくゆくは叙爵だって」
「興味ねえんだよ。話があったとして断ったと思うぞ」
自分は全力で拒否しただろう。八百長試合を持ち出して強固に反対したはずだ。
「お前なあ…………はあ、だが、お前らしいよ。副団長はお前のそういうとこが特に嫌いだったってさ」
ミゲルが脱力する。
「副団長はどうなるんだ?」
「降格の上で騎士の身分は剥奪。おそらく家からは勘当だろうな。財産は没収され少なくとも労働刑が課せられる見込みだ」
「そうか」
「ああ」
そこでミゲルは立ち上がると、深々とスティーブとフェリクスの二人に頭を下げた。
「この度は騎士団の汚点ともいえる事件で、あなた達には多大な迷惑をかけてしまった。深く恥じ入ると共にお詫びする」
「っ、おいおい、そういうのはいいよ」
「受け入れよう。だが本来ならトップが来るべきだと思うね」
慌てるハニーに、ちくりと苦言を呈するダーリン。
ミゲルは複雑な表情で顔を上げた。
「えーっとな、今回のことで副団長はもちろんなんだが、団長も退くんだ。団長は人がいいのだけが取り柄のおじいちゃんだったからな。何も気づけなかったことに意気消沈して早々に辞表も出した」
「つまりトップが不在なのだね?」
フェリクスの問いにミゲルはますます複雑な顔になった。
「いちおう、今だけ俺がトップなんだ。今回の手柄があるとか何とかで、臨時の団長代理だ。そういうわけで俺はドゥーラの騎士団を代表して謝罪している」
「なるほど」
「ええっ、大出世じゃんか! 団長!? すごいなミゲル、おめでとう!」
フェリクスは納得し、スティーブは喜びの声をあげた。リアスの話で暗かった気分が吹っ飛ぶ。
「スティーブ、ただの代理だ。おそらく団長は中央から別で来るって話だ」
「なんだ、残念だな」
「だが、まあ、その……副団長は内定している」
気まずそうなミゲル。
「なにしけた面してんだよ。副団長かよ。よかったなぁ、おめでとう、ミゲル」
副団長でも万々歳だ。過去に唯一自分を信じてくれた同期の昇進。スティーブは晴れやかな笑顔でお祝いを述べた。
「ありがとう。だがこの昇進は今回の活躍が認められてのことだからな。俺としては活躍したのはほぼスティーブだし、けっこう罪悪感があるんだよ」
「気にすんな、出世なんてそんなもんだろ。何より俺が嬉しいんだから、何の問題もない」
スティーブのフォローにフェリクスも深く頷く。
「好機をものにするのは大事な才能のひとつだよ。恥じずに胸を張るといい」
「お、おう。ダーリンくん、相変わらずだなあ。ありがとう」
ミゲルは戸惑いながら礼を言った。




