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ハニーとダーリン  作者: ユタニ


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24/33

24.連行されたダーリン②


スティーブはずかずかと店主に近寄ると、カウンター越しにその胸ぐらを掴んだ。


「ひいっ」

「お前と副団長の関係を言え」

「ひえっ」

「店の周りを騎士に張られて副団長を頼ったんだよな? ついでにカフスボタンの金も回収しようとした、違うか?」

店主はがたがたと震えながらスティーブとミゲルを見た。


「あの煙草、副団長の差し入れだろ?」

奥のテーブルに置いてある煙草を指差して畳みかけると店主はぎくりと身を強張らせた。


「っ…………」

店主は額に汗を吹き出させながらスティーブとミゲルを忙しく交互に見た。必死に何かを考えているのが分かる。

おそらく正規の騎士団の立ち入りでないことに勘付き、対策を練っている。


「ちっ、とりあえず痛い目みとくか?」

スティーブが空いている方の拳をぐいっと構えると店主は堪りかねて口を開いた。


「ひいっ、止めてくれっ。そ、その通りだ。昨日から店の周りに騎士が増えて、副団長様を頼ったよ」

背後でミゲルが「当たりかよぉ」と呻くのが聞こえた。


「よし、それを詰所を証言しろ」

スティーブはずるりと店主をカウンターから引きずりだそうとしたが、ここで店主が待ったをかけた。


「待てっ、そんなことをしても副団長にしらばっくられるだけだっ。俺の嘘だと言われて終わりだぜ、あんたも共犯で捕まる。しょ、証拠! 証拠を持ってくべきだろ!」

「証拠? んなもんその煙草でも持って行って問い詰めりゃいいだろ」

ぎりぎりと締め上げると店主は泣きそうな声で言った。


「もっとちゃんした証拠があった方がいいだろ? 協力するから話を聞いてくれよ」

「協力ぅ?」

「俺もいい加減、副団長の言いなりになるのは嫌気がさしてたんだ。あんたに協力する」

「…………」

「ほ、本当だ。あいつが裏で仕切ってた証拠があって、全部指示されてたことが証明できた方が俺だって助かるんだよ」

「証拠ってなんだ?」

スティーブが手を緩めると店主の目が輝いた。


「副団長の家に取引の記録があるんだ。あいつは騎士団の金を横領もしてんだぜ。その記録もある。俺はそれの管理もしてたからさ、家の鍵も預かってて出入りは自由なんだ。それを取ってから詰所に行こう、なっ?」

店主の言い分にスティーブはミゲルと顔を見合わせた。


両替商の店主に自宅の鍵を預けている?

変な話だ。副団長のリアスはそんなにもこの男を信用しているのだろうか。

そして横領?


(そこまでしてんのか? いやまあ、怪しい両替商と繋がってるだけでも酷いがそれにしても……)

ミゲルも同じ考えのようで複雑な顔をしている。


「俺だけ突き出しても、結局揉み消される。だから、なっ?」

もう一押しというように店主が続けた。


「スティーブ。確かに本当に副団長が絡んでるなら、はぐらかすとは思う。思うが……」

ミゲルはここからは耳打ちしてきた。


「鍵を預かってるなんてあり得るか?」

スティーブも同感だ。

戸惑う二人に店主はどこか甘い調子でこう言った。


「なあ、あいつは卑怯な奴だぜ、言い逃れができない証拠はいる。だから証拠を持って行った方がいい」

「…………分かった。じゃあ、そうしよう。変なまねをすればすぐに詰所に行くからな」

少し迷った末にスティーブは一旦店主を離し、逃げられないように自分の左手と店主の右手を縛った。


店主はその状態でカウンターの下から鍵の束を取り出し、三人で店の裏口から出る。

スティーブはミゲルのマントを店主にかけ、縛りあった手は見えないようにした。


雑踏を三人で歩き出す。

「ミゲル、副団長の家って知ってるか?」

「住所なら知ってる。だから違う所に向かえばそれは分かる」

ミゲルはそう答えた後、店主に聞こえないようにほぼ口パクで「罠では」と言ってきた。

スティーブは小さく頷き「警戒はしている」とやはり口パクで返す。


店主の訴えは筋は通ってはいるが、協力的すぎる気がする。何となくだが、このまま簡単に証拠なるものが手に入るとは思えなかった。

仲間のアジトに連れて行かれるようなら引き返すことも考えていたのだが、店主はきちんと副団長の家を目指した。


副団長の家は閑静な住宅街の一角だった。角地で防犯のためか塀はかなり高い。家は一人暮らしには十分すぎるほどの大きな一軒家だ。


店主は鍵の束から門の鍵を出してそれを開けた。

庭を横切り玄関へと歩く。

スティーブは土がむき出しの部分に無数の煙草の吸い殻が落ちているのを見つけてミゲルに顎をしゃくる。

ミゲルはちらりとそれを確認すると、地面に放り出されていたシャベルを音をさせずに手に取り、背後に隠した。


「本当に副団長の家でしたでしょ? 今、玄関も開けますね」

店主は上機嫌に玄関の鍵を回し、次の瞬間、ばっと勢いよく扉を開けた。


「!」

扉の先は広い玄関ホールになっていた。そしてそこには、明らかに悪人面をした男達が車座になってカードに興じている。


現れた三人に男達は身構えた。店主が叫ぶ。

「こいつら敵だっ、やっちまってくれっ」

「ミゲルっ」

スティーブはすぐさまミゲルの腰の剣を抜くと、自分と店主を縛る縄を斬った。店主の背中を蹴り、こちらに突っ込んでくる男達の方へと転がす。

バランスを崩す男達。スティーブは迷わずに彼らを斬った。


男達の雄叫びが上がり、居間の奥と二階から足音が聞こえてくる。


「何人いそうだっ?」

「知るかっ、それよりスティーブ、俺の剣っ」

「俺のが強い。あらかた防ぐからシャベルで何とかしろ!」

「ええー」

不満そうにしながらもミゲルはシャベルを構えた。


そこからは向かってくる男達をひたすら斬った。

数はそれなりだったが、中にいたのはほとんどがただのチンピラでスティーブの敵ではない。

男達はあっという間に戦意を喪失して、半分ほどはほとんど戦わずして逃げ出していく。


スティーブとミゲルは短い戦闘の後、副団長の家を制圧した。

息のある者を縛り上げ、腰の抜けている両替商の店主を脅すと家の中には本当に騎士団の金を横領していた記録があり、不正に入手したらしい金品が出てきた。


「…………」

「…………」

スティーブとミゲルはそれらを苦々しく並べる。


「現役の騎士、しかも副団長だぜ。何してんだよ」

ミゲルはぽつりと呟いた。その様子は怒りを通り越して悲しげだ。

騎士を引退して日の経つスティーブも、何ともいえないやるせなさを感じた。


副団長の家の中はかなりの人数が寝泊まりしていた気配があった。

完全にチンピラ達の根城になっていたらしい。


ひと通り確認し終わった頃、ミゲルの隊の騎士達も駆けつける。

家からは斬りつけられて血まみれの男達が逃げ出しており、周囲の住民が通報したのだ。


「朝、隊長が副団長を追って出て行ってたから、場所を聞いてまさかと思って来たんすよ」

「何ですか、これ? ここ、副団長の家ですよね? なんでならず者の溜まり場みたいになってるんです?」

若い騎士達は転がされている男達を確認しながら困惑している。

ミゲルはてきぱきと、証拠品の押収と逃げたチンピラ達の捜索を指示した。


逃げ出した男達の通報は複数あったらしく、他の分隊も続々と到着する。皆、副団長の家の惨状に戸惑い、苦い顔で証拠を確認した。


騎士達は重苦しい雰囲気で、しかし素早く詰所へ戻ると粛々と副団長リアスを拘束した。

大混乱に陥る騎士団の詰所。リアスの独断で勾留されていたフェリクスが解放されたのは夕暮れ時だった。




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