八年後 15
鶴川は阿川の提案に一瞬戸惑ったが、冬真や双葉がいるときに誘った方が、もし返信がすぐに来たら二人の意見や予定を聞きながら話を進められるし、確かに好都合だなと考えた。そして次のようなメッセージを作成し、送信した。
『高山君、先日はありがとうございました。正直、気が乗らない飲み会だったのですが、高山君のおかげで楽しい時間を過ごすことが出来ました。
実は僕は、小学生のときに国語クラブの部長をしていたことがあって、その国語クラブの活動を再開させようという話が今、持ち上がっています。クラブと言っても大人数ではなくて、現在の部員は四人だけです。高山君も本が好きということなので、もしよければ一度、僕達の集まりに参加してみませんか?みんなで好きな本について語り合ったりするだけの、アットホームなクラブです』
「送ってみた!返信、来るかな?」
鶴川はワクワクした顔で阿川と双葉の顔を見た。
「もし来なかったら、部長はかなり嫌われているということになるね…フフフ」阿川がニヤニヤしながら言った。
「嫌なこと言うなよ、スネ夫!『飲み会の席で楽しく会話しました。そして、めちゃくちゃ嫌われました。』って、話の流れとしておかしいだろ」
「人間というものは、思っていることをそのまま表情に出すとは限りませんからね…オーッホッホッホッ!」
「双葉まで、恐ろしいこと言うなよ!ああ…やっぱり誘わない方が良かったかな。なんか恐ろしくなってきた!」
「気が小さいなあ、部長。もっとドーンと構えなよ」
「お前が言うなよ、スネ夫!お前が不安にさせたんだろっ」
しばらく画面を見つめていたが既読が付かなかったので、鶴川は「とりあえず、どこかお店に入って、何か食べながら返信を待とう」と提案した。三人は近くにあるタイ料理の店に入り、テーブル席に座った。鶴川はグリーンカレーが好物なのだ。
「グリーンカレーって、辛いのに甘いだろ?まるで、小悪魔的なのに全宇宙で最も可愛くて可憐な工藤さんのようだと思わないか?」
「その理屈でいくと、ショートケーキに一味唐辛子を振りかければ工藤さんが完成することになるね」
鶴川の問いかけに、阿川はそう答えた。
「バカモノッ!そんな狂気じみた物体と、地上に舞い降りた天使を一緒にするんじゃないッ!」
それぞれが注文したカレーが運ばれてきたときに鶴川は再びラインを開いて確認したが、まだ既読は付いていなかった。三人は談笑しながら食事を進めた。
「あっ!返信来てた!」
カレーを食べ終えてラインを開いた鶴川の発した言葉を聞き、阿川と双葉は同時に鶴川の顔を見た。
「どう?なんて書いてある?見せてよ」
阿川にそう言われ、鶴川は自分から見ると逆さまになるようにしてスマホをテーブルの上に置いた。阿川と双葉は顔を近づけて画面を覗き込んだ。そこには、次のようなメッセージが表示されていた。
『鶴川君、こんにちは!返信遅くなってしまってごめんなさい。図書館でレポートを書いていたので気づくのが遅くなってしまいました。
国語クラブの件ですが、是非、参加させて下さい!大学では基本的にボッチですし、家でも妹に「アンパンマンは愛と勇気だけが友達みたいだけど、二人いる時点でお兄ちゃんよりは友達多いよね」などと言われています。「愛と勇気って、人じゃなくない?」と反論したら、「ムキになって反論してて草」と笑われました。そんな状況から脱する千載一遇のチャンスなので、是非、参加させて下さい!』
阿川は高山のメッセージを読み終え、「こ…これは…」と絶句した。双葉も「ひ…悲惨な状況ですわね…というか、妹さん…ひど過ぎますわ…」と言って眉間に皺を寄せた。「誘って良かったかも知れませんわッ!人助けになりますものッ!」
双葉の言葉に鶴川も頷いた。
「その高山君の妹が『私も国語クラブ参加してみた〜い』などと言い始めても、それだけは拒否しような」
鶴川の言葉に、阿川と双葉は無言で力強く頷いた。




