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八年後 7

 新宿で飲み会に参加した翌日、鶴川マサキは大学の講義室で強い眠気に襲われ、うとうとしていた。

「マサキ、ちょっと面白い話があるよ。多分、びっくりすると思う!」

 やや興奮気味の声で話しかけてきたのは阿川冬真だった。

「え?一体何だよ、(やぶ)から棒に」

「昨日、渋谷で買い物をしていたんだけどさ」

「お前が渋谷で買い物?なんか似合わないな。巣鴨の地蔵通り商店街なら似合うのだが」

「…余計なお世話だよ。道玄坂を歩いていたら、マサキも知ってる、ある人物にばったり遭遇したんだよ!誰だと思う?」

「え!?ちょっと待て。まさか工藤さんじゃないよな?」

 鶴川は慌てて訊いた。

「あ、ごめん!工藤さんじゃないんだよ」

「…なんだよ。期待させるなよ!え〜と…誰だろうな。何かヒントちょうだい」

「鼻がひとつで、目が二つだね」

「うわ〜!大ヒント!…って、おい!人間なら誰でもそうだろっ。なんなら人間じゃなくてもほとんどの動物はそうだろっ」

「一部の昆虫の可能性は排除されるでしょ。トンボとかさ。トンボは目が一万〜三万個あるからね」

「最初からトンボは候補に入れてないからヒントの意味無いんだよ。他のヒントくれ」

「二足歩行してた」

「すごいヒントありがとう。犬と猫は排除されたわ」

「虎とかサイとか馬とか、数え切れないくらい排除されたでしょ。感謝してよね」

「おい、ふざけてないで教えてくれよ。誰に遭遇したんだよ」

「じゃあ最終ヒントね!『オーッホッホッホッ!』」

「えっ!双葉か?小山双葉!?」

「ピンポーン!正解!そう!小山双葉に会ったんだよ!国語クラブの小山双葉に!」

「えええ〜っ!そ、それ本当か?ものすごい偶然じゃないか!で、お前、話しかけたのか?」

「いや、向こうが先に気づいて、向こうから話しかけてきた。『そこを歩いているのは、阿川冬真君ではございませんか!オーッホッホッホ!』って」

「…あいつ、相変わらずだな。まあ、あいつは高校までずっと成淵学院だったから、小学校を卒業してからずっと会ってないわけじゃないしな。俺は高校二年のときあいつと同じクラスになったんだが、そのときも『オーッホッホッホ!』って言ってたからね」

「というか、ボクは中等部にも国語クラブはあるものだと思っていたんだけど、無かったんだよね。文芸部すら無かったし。マサキが設立しちゃえば良かったのに」

「工藤さんが急に転校していなくなっただろ?そのショックが大き過ぎて、俺はそれどころじゃなかったよ」

「ああ…そうだったね。ごめん」

「ところで双葉って、どこの大学に行ったんだっけ?」

「それ渋谷で訊いたんだけど、学秀院大学の文学部って言ってたよ。国文科だって」

「おお〜!国文科!いいねえ!久しぶりに会って話したいな。お前、ライン交換しなかったの?」

「マサキが多分そう言うだろうと思って、交換してきたよ」

「おお〜!あっ!ねえ、あいつ、工藤さんとライン交換してないかな?」

「それもマサキに訊かれるだろうと思って小山さんに訊いたんだけど、小山さんも交換してないって」

「そうか…」

「マサキ、そう暗い顔するなよ。マサキが前向きに生きていれば、いつか会えるさ」

「…うん、そうだな。…そういえば双葉は渋谷の松濤に住んでるって言ってたもんな。道玄坂に頻繁に出没していても全く不思議は無い」

「そうだね。今度小山さんを誘って、三人で食事でもしようよ」

「うん、そうしよう」

 鶴川はそう返答しながら、未希以外の国語クラブのメンバーが揃った状態で食事をしたら、未希の不在を強く実感してしまいそうで、怖いな…と思った。しかし、そんな風にいちいち怖がって生きるよりも、明るく前向きに生きた方が未来が拓けるような気がした。鶴川は講義室の大きな窓から澄み切った空に浮かぶ小さく千切った綿菓子のような雲を見上げ、「楽しみだな!」と言った。

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