八年後 6
その後も鶴川は高山隼人と、映画や小説について話をした。鶴川は高山とはなんとなく気が合うように感じていた。高山の方もそれは同じだったので、「来月、予定合わせて二人でゆっくり飲みませんか?」と鶴川を誘った。そして周りに聞かれないよう声を小さくして「俺、実は彼女いるんですよ。今日は数合わせで呼ばれただけで。だから女の子は別にいいんですけど、普通に男の友達が欲しかったんですよ。俺、大学で友達ほんと少なくて…」
そう言って高山は少しおどけて、自虐的に笑った。
「えっ。ほんとですか?俺も数合わせなんですよ。奇遇ですね」
鶴川は笑いながら返答して、「是非、行きましょう」と承諾した。
「あ、でも来月ってことは、六月ですよね?前半でも大丈夫ですか?」
鶴川は少し慌てた様子で訊いた。六月の後半は未希の誕生日があるので、鶴川は毎年、予定を入れずに一人で過ごすことにしていた。鶴川が誕生日を知っていることをもし未希が知ったら、彼女はきっと驚くだろう。鶴川はそう思っていた。何故かと言うと、会話の中でお互いの誕生日を教え合ったことがあるわけではないからだ。小学生の頃、会話の中で彼女がさらっと「わたし昨日、誕生日だったんだけど…」と言ったのを鶴川が聞き逃さず、「へえ〜、そうなんだぁ」などと言いながらさり気なく自分のスマホを手に取って、メモ帳アプリを起動させ、即行でメモったのだった。未希は全く気づいていなかった。そのとき鶴川は『よっしゃ!これで来年は誕生日プレゼント渡せる!』と内心、歓喜していたのだが、その後彼女は突然転校してしまい、鶴川が未希に誕生日プレゼントを渡す機会は失われてしまった。いつか未希に誕生日プレゼントを贈るということは、鶴川にとって大きな夢、目標である。それが夢なのに別の予定を入れるのはおかしいだろうと考えて、毎年、六月の後半は遊びの予定は一切入れないようにしていた。機会が失われたことについて、未希は全く悪くなかった。なにしろ彼女はちゃんと鶴川に「ライン交換しよ?」と言ったのだ。それを断ったのは鶴川なのだ。その理由は彼が小説の中で述べた通りで、結局のところ彼自身にもよく分からなかった。彼が分かっていることは、それが自分にとって人生最大の失敗であり、後悔であるということだけだった。
「前半でも全然、大丈夫ですよ」
高山はそう返答し、鶴川は「良かった。ありがとうございます。楽しみにしています」と言った。
鶴川が高山とばかり話していたので徳永響子はその後、酒宴が終わるまで鶴川に話しかけることはなく、鶴川が危惧していたラインの交換という事態は回避された。鶴川は岩瀬に『頼む!』と懇願され、カラオケボックスで開かれた二次会にも参加したが、結局鶴川がラインを交換したのは高山隼人だけであった。
その日、終電に乗り深夜に帰宅した鶴川は、自室の窓を開けて濃藍の夜空を一人眺め続けた。




