戦いから日常へ 2
「あ、そういえば俺、今度田辺さんと美術館デートすることになった」
「えっ。そうなの?いいじゃん。最高じゃん、美術館デート」
「田辺さんは美術が好きみたいなんだよ。印象派が好きらしい。で、箱根にある美術館に行こうって」
「てことは、ポーラ美術館かな。あそこは最高だよ」
「日帰りでも行けるよな?」
「行ける行ける。強羅駅から無料の送迎バスが出てるよ」
「俺、バス酔いするからエチケット袋を用意しておかないと。おやつは三百円までだよな?バナナはおやつに入るのか?黒豆の甘煮は?境界線が分からない」
「遠足じゃないんだよ」
「田辺さんに『岩瀬君は好きな画家とか、いる?』って訊かれたから、一応『モーツァルトとゴッホと滝廉太郎です』って答えておいた」
「一応じゃないよ。お前、もしかして好きな作品は『アイネ・クライネ・ナハトひまわり』か?」
「あと岡本太郎も好きだよ」
「そうなのか?初耳だが…どの作品が特に好き?」
「『月の塔』だな。滝廉太郎なら『荒城の太陽』が好き」
「話をややこしくするのがお前の特技だってことは知っていたが、間違え方までややこしいな」
「音楽ならドビュッシーの『月の光』が好きだ」
「…それは合ってるのに、お前が言うと太陽だったような気もしてきて、何が正しいのか分からなくなる」
俺はこれ以上、岩瀬と会話を続けると精神に悪影響が出ると判断し、退避することにした。
「岩瀬すまん、俺ちょっと二組に行って、工藤さんに労いの言葉をかけてくるわ」
俺はそう言って、二組に向かった。二組の扉は開いていて、未希は鞄からノートやタブレットを取り出しているところだった。
「工藤さん、おはよう!」
「あ、鶴川君!おはよ!私も今から一組行こうと思ってたとこ!」
「おお。先に来ちゃいました!昨日はお疲れ様でした。そして、あらためて、おめでとう」
「ありがとう!」
「工藤さん、めちゃくちゃ格好良かったよ」
「てへへ…!みんなが支えてくれたおかげだよ。あ、そういえばさ、昨日、青木先生達と一緒に撤去作業したじゃん?観覧用の椅子とかの」
「うん」
「あのとき、田辺さんと話して、ちょっと仲良くなっちゃった。てへへ」
「え、そうなの?」
「うん。田辺さんの方から『工藤さん、おめでとう。すっごく格好良かったよ』って声をかけてくれてね。『私、一組の田辺加奈って言います。鶴川君の友達の、岩瀬君の…あの…』って口ごもってたから、『もしかして彼女さん、ですか?』って言ったら、『…はい』って、顔を赤くして答えたの!可愛いよね!キャハハ!」
「えー!あいつ、そんなこと言ったの?相変わらず大胆だなあ」
「相変わらず?」
「あいつ、岩瀬と初デートしたとき、待ち合わせ場所でいきなり腕を組んできたらしいよ」
「きゃー!大胆っ!岩瀬君、よく気絶しなかったね」
「ギリギリのところで堪えたみたいだよ。というか元々、気絶しながら生きてるような感じだからな、あいつは」
「キャハハ!なにそれ〜!」
俺はそのあとも朝のショートホームルームが始まるまでの間、未希とたわいもない話をした。そういう時間こそが俺にとっては一番大切な、宝物のような時間だった。




