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戦いから日常へ 1

 『小学生国語王決定戦』は日曜日に開催されたので、その翌日、俺は登校した。決定戦の日は緊張したり泣いたり大喜びしたり、ジェットコースターに乗っているような一日だったので俺は少し疲れを感じていた。「一日、休みが欲しいなあ」と思ったが、「一回戦で負けたくせに、疲れたとか言ってんじゃないよお前は!」と自分で自分に突っ込みを入れ、諦めて学校に行くことにした。

 教室に着いて自分の席に座り、ぼーっと窓の外を眺めていたら、岩瀬が教室に入ってきた。自分の机の上に鞄を置いて、すぐ俺のところにやって来た。

「マサキ!昨日はお疲れ!マサキのペアは残念だったけど、工藤さんのペアが優勝したわけだから、最高の結果と言っていいんじゃないか?おめでとう!」

「ありがとう。本当に最高だったと思ってる。俺と冬真は鼻をへし折られたけど、今はそれで良かったと思ってる。その方が良かったんだ。初心にかえることが出来たしな。ていうか昨日、田辺さんと一緒に観覧席の椅子の片付けとか、手伝ってくれてありがとな。田辺さんにもお礼言っておかないとな。後で」

「全然大丈夫だよ、あれくらいのこと。みんなでワイワイ作業するの好きだしな、俺。ていうか俺、普段はクイズの動画とか全然観ない人なんだけどさ。昨日、マサキ達が問題に答えてるの観て、楽しそうだなって思っちゃった。俺にも何か、問題出してみてよ」

「え?問題って…国語の問題?」

「うん。文学作品に関する問題でもいいよ」

「じゃあ…川端康成の『雪国』の、最初の一文は?」

 バシッ!

 岩瀬は昨日の俺達の真似をして、机の上を叩いた。

「はい、岩瀬君!答えを、どうぞ!」

 早押しクイズ気分を高めてあげようと、俺も調子を合わせてそう言った。

「トンネルを抜けると島国だった」

「ブブーッ!不正解!ていうか、タイトルが『雪国』なのに、なんで一行目からいきなりタイトルを無視して『島国』なんだよ!ハワイ旅行の話なのか?」

「いやいや、ハワイはアメリカの一部なんだから、島国じゃなくて島だろ!日本が島国なんだよ」

「知ってるよ、それくらい!お前と話してると、いつも話がややこしくなるんだよ!そもそも、『国境の長いトンネル』だからな?ただのトンネルじゃないんだよ!」

「知ってるよ!青函トンネルだろ?」

「違う違う!青函トンネルってお前、川端康成が亡くなった後に出来たトンネルだろ!『雪国』の舞台は新潟県だからな?越後湯沢だよ。書かれてはいないんだけど」

「そうなの?今度、読んでみようかな」

「う〜ん…あくまでも俺の意見だが、川端康成とか谷崎潤一郎は、俺達の年齢で深く理解するのはなかなか難しいよ。もちろん読めないことは無いが、どうしても理解の限界がある。それは語彙とかの問題じゃなくて、なんというか…大人の男女関係と、その悲哀みたいな要素が多いからさ。もちろん、そうじゃない作品もあるけどね。近代文学の作品を読むなら夏目漱石の『吾輩は猫である』『坊っちゃん』とか、芥川龍之介、宮沢賢治の方がいいと思うよ」

「なるほど。俺は『吾輩は猫である』については、昔から不思議に思っていることがある」

「え?何だよ?」

「タイトルしか読んだことは無いが、なんで猫が人間の言葉で自己紹介してるんだ?しゃべれるのか?」

「創作だからな。そういうこともあり得る世界なんだよ」

「でもさ、アニメに出てくるタマとかシロとかチーズ、かびるんるんはしゃべらないぞ?あれも創作だろ?」

「初期のかびるんるんはしゃべってたらしいぞ。海底鬼岩城のバギーちゃんとかリルルはしゃべるだろ?というか、そもそもドラえもんがしゃべるだろ」

「つまり…夏目漱石の書いた猫は、初期のかびるんるんとか、AIに近いということか?ドラえもん、バギーちゃん、リルルはAIだよな?」

「…お前、ほんと話をややこしくする天才だな」

「そうか?ありがとう」

「褒めてない。あと、お前に大事なことを言っておくが、『吾輩は猫である』の猫は、主人と日本語で会話してるわけじゃないからな?それだけは言っておく」

「え?どういうこと?主人には『ニャ〜』って鳴いてるだけなの?」

「そういうことだ」

「でも、心の中では日本語をしゃべってるってこと?」

「う〜ん…そこは微妙だな。つまりあれは、猫の言語を漱石が日本語に翻訳して書いているような感じだ。だから猫同士の会話も日本語で書かれている」

「猫に言語ってあるのか?」

「そりゃ、あるだろ。腹が減って『ニャ〜』と鳴いているとき、考えているのは『ニャ〜』ってことじゃなくて、『腹減った〜』ってことだろ?多分、俺達には全て似たような『ニャ〜』に聞こえているだけで、猫同士だといろんな『ニャ〜』があるんだよ」

「マサキ、ちょっとお前、『ニャ〜』って言ってみて」

「え?なんでだよ?」

「いいから!早く!」

「…ニャ〜」

「…分かった。今の『ニャ〜』は、『工藤さん可愛過ぎる〜』という意味だ」

「正解だよ」

 俺はそう答えて、岩瀬と大笑いした。

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