表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/95

小学生国語王決定戦・決勝 4

 読み上げ係を務める無心学舎初等部の時田君も、今こそが大会の山場であることを張り詰めた空気によって実感し、かなり緊張しているように見えた。早稲山実業の坂本君は高揚した、強気な表情を浮かべていた。追い上げてきた立場なので、追いつかれた紫電学院よりも精神面では優位かも知れない。未希は決勝が始まったときから、表情があまり変わっていないように見えた。とても芯の強い人なので、優位に立っても調子に乗らないし、ピンチになってもアタフタしない。双葉もそういうところがあるので、すごく良いペアだなと俺はあらためて思った。だからこそ、決勝まで来ることが出来たのだろう。

「問題!…ちょっと長い問題なので、ゆっくり読みます。よく、お聴き下さい。」

 長い?一体、どんな問題なんだ?俺はなんだかワクワクした。

「一人暮らしをしながら東京の大学に通うA君のもとに、二通の手紙が届きました。一通は実家の母親からで、もう一通は地元に残してきた恋人、B子さんからでした。母親からの手紙には、『A、元気にしていますか。Aが子供の頃から大好きな近所のラーメン屋さん、最近味が変わって、全然美味しくないんです。腹が立つほど、美味しくないんです。チャーシューも薄っぺらくて、紙みたいな薄さです。あの店は、もうダメです。』と書いてありました。恋人のB子さんからの手紙には、白いワンピースを着たB子さんの写真が添えられていました。手紙には『最近買ったワンピースだよ。どうかな?私は最近、古文の勉強をめちゃくちゃ頑張ってま〜す。』と書いてありました。A君は母親とB子さんの二人に、全く同じ内容の手紙を書いて送りました。その手紙に書かれていたのは、平仮名三文字だけでした。その三文字とは、何でしょう?」

 まさに奇問である。ていうか、誰だよ、この問題を作った先生!俺は心の中で突っ込みを入れた。心の中だけではスッキリしなかったので、横にいる冬真に「この問題作ったの、誰だよ!」と言った。冬真は笑いながら「ボクに訊かれても、困るよ!知らないよ!」と返答した。まあ、そりゃそうだよな。

 バシッ!

 ボタンが押された音がしたので、俺は慌てて冬真から解答席の方に視線を移した。押したのは未希だった。しかも、(こら)えきれずに笑ってしまっている。問題の珍妙さがツボだったようだ。おそらく母親がラーメン屋について語った内容がツボだったのだろう。未希は、あまり笑っていては他の解答者に失礼だと思ったようで、真面目な顔に戻してからマイクに顔を近づけた。

「かなし」

 そ、それだ!『可愛い』という意味をもつ古文単語三つを俺は『工藤さん三単語』と呼んでいたが、その中のひとつ、『かなし』だ!母親の方は普通に『悲しい』という意味だと解釈してくれるだろうとA君は考えて、送ったんだ!

 ピンポーン!

 そのとき鳴り響いた正解の音は、俺にはサグラダ・ファミリアの鐘の音のように聞こえた。俺はそれを聞いたことは無いのだが、なぜかそう思った。未希は笑いながら泣いていた。双葉も同じだった。未希が双葉の胸に飛び込んで、双葉は強く抱きしめた。二人は抱き合ったまま、くるくる回った。その一連の動きが俺にはスローモーションのように見えた。周りの歓声も、俺の耳には入ってこなかった。涙が溢れてきて、俺の大好きな、俺が世界で一番好きな未希の姿がぼやけて見えた。おめでとう、未希。ありがとう、ありがとう…未希。俺は心の中で何度も言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ