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岩瀬との対話1

 未希が一組の教室まで遊びに来てくれた、休み時間。その後の授業中、俺が未希のことばかり考えて勉強に全く集中出来なかったことは言うまでもない。『何なんだ、あの破壊力は…』『あいつにキャッチフレーズをつけるとしたら、「可愛さの最終兵器」あるいは「可愛さの権化」「神がつくった最高傑作」…』そんなことを考えているうちに授業終了の鐘が鳴った。

 俺は理科の教科書を机の中にしまい、『もしかしたら未希、また来てくれるかな…』と考えていたが、二分ほど経っても未希は現れなかった。その代わりに、岩瀬という男子が俺のところに来て、俺のひとつ前の席に座った。その席の主はどこかに行っており、空いていたのだ。

 岩瀬健人は剣道教室に通っている算数が得意な男で、俺とは結構仲が良かった。日曜日に待ち合わせて、一緒に映画を観に行ったこともある。俺より少し背が高くて、眉毛がキリッとしている。

「なあ、さっきの休み時間、お前が話してた女子、誰?」

 岩瀬は少しニヤニヤしながら聞いてきた。

「国語クラブの新入部員だよ」

 俺はあっさりシンプルに答えた。

「ふーん…なるほど。新入部員ねえ…」

「何だよお前。ニヤニヤしやがって。気持ち悪い奴だな!」俺はそう言って笑った。そして声を小さくして、「お前の方こそ、例の…田辺さんとは、その後どうなんだよ」と聞いた。俺は一ヶ月ほど前に岩瀬から恋愛の相談を受けていた。同じクラスの田辺加奈のことが好きだが、どうすればいいのか分からないというので、「知るかよ、そんなの!」と、とりあえず一蹴してから「手紙でも書いて、渡せばいいんじゃないか?」と助言しておいたのだ。

「手紙は、書いたのか?」

 俺は『こいつのことだから、どうせ書いてないだろうな』と思いながら聞いた。すると意外な答えが返ってきた。

「手紙は…書いたよ。家で五回くらい書き直して、やっと完成させた。偉いだろ?」

 俺は思わず吹き出してしまった。こんなチャラい男が、大真面目な顔で必死に五回も手紙を書き直している姿を想像したら、もう、おかしくて仕方ない。

「くくく…ヤバい、面白過ぎる…!お前、意外と一途でいい奴なんだな!」

 俺はそう言って、こみ上げてくる笑いを必死に抑えていた。

「どんな手紙だよ?漢字とか間違ってないだろうな?」

 俺は心配になって聞いた。岩瀬は確か、国語はあまり得意じゃないし、漢字は特に苦手だった気がしたからだ。「お前、のび太みたいに『太』を『犬』って書いたりしてないだろうな!?」俺は、相変わらず笑いを噛み殺しながら聞いた。もう、楽しくて仕方ない。

「そんな間違い、してねえよ!そもそも、ラブレターに『太』なんて出てこないだろ、普通!」

 岩瀬が口を尖らせて言うので、俺はついに我慢出来なくなり、ギャハハハと爆笑してしまった。

「腹痛い…やめて…アハハハ…!!分からないよ?『僕がのび太だとしたら、あなたは静香ちゃんです!運命なのです!』とか、書くかも知れないじゃん」

 俺は完全にふざけて、岩瀬にそう言った。そして自分で言って自分でウケていた。笑いながら俺は、「こいつ、案外真面目でいい奴だったんだな」と思った。

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