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作針学舎戦  3

 俺と冬真は再び解答席に視線を向けた。読み上げ係である極東亜学院の新島君は、問題が書かれた机上の紙を指先でつまみ、少しだけ浮かして視線を落とした。

「問題!まず、これから、ある文学作品の中のひとつの文をゆっくり読み上げますので、お聞き下さい。」

 俺は解答者達と一緒に耳を澄ませた。

「その彼の魅力は絶えず私へも言葉をいう度に迫って来るのだが何にせよ私はあまりに急がしくて朝早くから瓦斯で熱した真鍮へ漆を塗りつけては乾かしたり重クロムサンアンモニアで塗りつめた金属板を日光に曝して感光させたりアニリンをかけてみたり、その他バーニングから炭とぎからアモアピカルから断裁までくるくる廻ってし続けねばならぬので屋敷の魅力も何もあったものではないのである。」

 新島君は一文を読み終えた。

「今、読み上げた長い一文には、読点(とうてん)がひとつしか使われていません。この特徴的な文を書いた作家の名前と、この文が含まれている作品のタイトルを」

 バシッ!

 新島君の読み上げの途中でボタンを押したのは市川さんだった。

「横光利一、『機械』」

 ピンポーン!正解だった。 

 追いつかれてしまったが、まだ三対三だ。落ち着いていけ、未希、双葉。俺は心の中でつぶやいた。

「問題!これから読み上げる文章は、夏目漱石がある作家のある作品を読み、感想を書いてその作家に送った手紙の一部分です。その作家と作品名を答えて下さい」

 おおっ。これは興味深い問題だな!俺は夏目漱石を大尊敬しているので、テンションが上がった。

「自然で、淡泊で、可哀想で、美しくて、野趣があって結構です。あんな小説ならば何百編よんでもよろしい」

 ん?『夏目漱石入門』という、俺が五年生のときに買った本にも、載っていた覚えは無い。長塚節の『土』を読んで、「これは私には書けない小説だと思った」というようなことを述べたとは書かれていたが…いや、でも、『土』って確か、かなりの長編小説だよな…?あれを何百編も読むのは、さすがに大変じゃないか?本当に何百編も読むわけでは無いにしても、『土』への賛辞なら、別の表現を選ぶはずだ。漱石が芥川龍之介の『鼻』を激賞したことはあまりにも有名だが、読み上げられた手紙の二文はどう考えても『鼻』への賛辞ではない。はて…? 

 バシッ!押したのは双葉だった。

「伊藤左千夫、『野菊の墓』」

 俺は目を丸くして、双葉から読み上げ係の新島君に視線を移した。

 ピンポーン!

 よしっ!正解だ!双葉、やるじゃないか!未希と双葉はお互いに手を伸ばして抱き合い、喜んでいた。あと正解ひとつで決勝進出だが、二人は落ち着いているように見えた。喜んで高揚している感じはあるが、気持ちが悪い方向に乱れたりはしていない。喜んではいるが、油断はしていない。そういう表情に見えた。

「問題!タイトルに、十よりも多い数字が入っている散文の作品を三つ、作者名とともに挙げなさい」

 十よりも多い数字…?漱石の『夢十夜』は入れちゃダメということか。

 市川さんの手がボタンの方に一瞬、動いた。しかしすぐに引っ込めた。思い浮かべていた中のひとつが条件に合っていないことに気づいたのかも知れない。俺がそう憶測した次の瞬間、未希の手がものすごい速さでボタンを押した。ボタンは、光った。俺と冬真は、固唾を呑んで未希が言葉を発するのを待った。

「ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』、安部公房『R62号の発明』、」

 そこまで言ってから未希は一度、目を閉じた。会場は静寂に包まれた。未希は目を開き、噛みしめるように言った。

壺井栄(つぼいさかえ)、『二十四(にじゅうし)(ひとみ)』」

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