表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/99

作針学舎戦  2

 作針学舎の市川さんは片目を閉じて、悔しそうな顔をした。橋本君の方は冷静に見え、市川さんの耳元で何か言った。市川さんは小さく頷いた。俺は、おそらく『落ち着いていこう』みたいなことを言ったのではないか、と推測した。市川さんは身長が低めの女の子で、量が多そうな髪の毛を後ろで束ねて結んでいた。少し地味な感じの子だが、気は強そうに見えた。橋本君は平均的な体格で、サラサラの髪を真ん中で分けている。勝手な憶測だが、女の子にモテそうな人だなと俺は思った。

「問題!七番目に編纂された勅撰和歌集の名称と、その撰者を答えなさい」

 反応したのは橋本君と双葉だった。紙一重の差で双葉の方が早かった。ボタンが光る。

「『千載和歌集』、藤原俊成」

 ピンポーン!正解だった。双葉と未希は笑顔で視線を交わしたが、二人ともすぐに真剣な表情に戻った。

「次の問題は、記述解答してもらいます。油性マーカーと解答用のボードを用意しましたので、それを使って記述して下さい。解答は四人同時に見せてもらう形になります。ペアを組んでいる二人が同じ答えを書いていて正解だった場合でも、獲得するポイントはもちろん一ポイントです。両校ともに正解だった場合は、両校にそれぞれ一ポイントが与えられます。それでは、問題です。タイトルを五十音順に並べたときに、出来るだけ後に来る散文の作品と、作者名を挙げて下さい。挙げられた中で、最も後ろに来る作品を挙げた人が正解者となります。なお、タイトルに歴史的仮名遣いが含まれる作品は除外するものとします」

 この妙な問題に俺は困惑した。まあ俺は解答者では無いのだが、それでも困惑した。え〜と、はまやらわをん…だから…『を』から始まるやつ、あったような気はするんだけどな…などと考えていた。俺が思い浮かべた中で一番後ろに来る作品は大江健三郎の『われらの時代』だった。

 四人の解答者はボードに答案を書き終え、新島君の「それでは、皆さんの答えをお見せ下さい」という指示に従って、ボードに書いた文字を観覧席の方に向けた。四人のうち、橋本君以外の三人は「オルコット『若草物語』」と書いており、橋本君だけが違う答えを書いていた。

「坂口安吾『わが工夫せるオジヤ』」

 橋本君のボードに書かれたその答案を見て、皆は困惑していた。確かに『若草物語』よりも五十音順で後ろに来るタイトルだが、正直、俺は聞いたことが無い作品だった。他の人達も同じだったようだ。答案審査担当の紫電学院の先生も、慌ててスマホで調べている。俺はその様子を見て少し笑ってしまった。

 ピンポーン!正解の音が鳴った。確かに存在する作品だったようだ。橋本君はおそらく坂口安吾のファンなのだろうと俺は思った。これでスコアは二対二の同点だ。

「問題!中原中也の詩『汚れつちまつた悲しみに……』の最後の一行を答えなさい」

 解答者は最初四人とも固まって動かなかったが、二秒ほど経過したとき、未希がボタンを押した。そういえば部室で大会に向けて勉強していたとき、中原中也の詩集『山羊の歌』を未希が読んでいたな!と、俺は思い出した。

「なすところもなく日は暮れる……」

 ピンポーン!正解だった。俺は拳を握りしめて「よしっ!」とガッツポーズをした。肘が横にいた冬真に当たってしまったので「あ、ごめん!」と謝った。冬真は、そんなこと全く気にしていない様子で大喜びしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ