作針学舎戦 1
未希のお母さんと話したあと、俺は国語クラブの部員が集まっている場所に戻った。
「今、工藤さんのお母さんと話したよ。すごく優しそうなお母さんだね」
「あ、うん。知ってる。さっきお母さんに『鶴川君って、どの子なの?』って訊かれたから、『あそこで女の人と話してる人だよ』って教えてあげたの」
なるほど、そういうことだったのか。
「さっき仲良く話してた中学生っぽい女の人、誰!?」
未希はすごく怒っているような顔で訊いてきた。すごく怒っているのに、半分はおどけているような、そんな顔だった。
「えっ?あ、姉だよ!俺の姉ちゃんだよ!」
俺は少しアタフタしながら答えた。
「…な〜んだ、お姉さんか!なら、許す!」
未希は小悪魔的な笑みを浮かべてそう言った。うわ、この人もしかして、焼き餅焼いてくれたのっ!?可愛過ぎるだろ…!俺は嬉しくて卒倒しそうになるのを必死にこらえて、真面目な顔を作った。
「ところで、次に戦う作針学舎の橋本・市川ペアについては、何か情報はあるの?」
俺がそう訊くと、未希は首を横に振った。
「なんにも無いよ!でも、無い方がいいでしょ!」
「えっ!なんで?」
「誰が相手でも全力で戦うしかないわけだから結局同じだし、もし『あのペアは昨日、捨てられた子犬を助けたらしい』なんて情報が入ってきたら、『いい人…』とか思っちゃって、本気で戦えなくなっちゃうかも知れないじゃん!」
未希はそう言って、キャハハと明るく笑った。うん、確かにその通りだ。誰が相手でも、正々堂々、全力で戦うだけだよな!
そんなことを話しているうちに、休憩時間が終わった。俺は未希と双葉に「じゃあ、工藤さん、双葉。頑張って!」とだけ言った。未希と双葉は俺の目を見て、コクリと頷いた。二人とも、闘志が伝わってくる目をしていた。俺達は解答席の横にある参加者用の観覧スペースに移動し、未希のご両親や俺の姉は通常の観覧席に戻っていった。いよいよ、準決勝が始まる。
「成淵学院初等部の小山さん、工藤さん。作針学舎初等部の橋本君、市川さん。よろしくお願いします。私は読み上げ係を務めさせて頂きます、極東亜学院初等部の新島です」
新島君はそう挨拶をしてから、これまでの読み上げ係の人達と同じように、机上の紙に静かに視線を落とした。
「問題!これから読み上げる和歌を詠んだ、登場人物の名前を答えなさい」
登場人物?ってことは、物語に出てくる和歌か。源氏物語かな?…俺は瞬時にそう考えて、読み上げられる次の言葉を待った。
「おくと見る」
バシッ!
作針学舎の市川さんがものすごい早さでボタンを押した。
「紫の上」
ピンポーン!正解だった。冬真が横で「紫の上の最期の歌だね」と言った。未希と双葉を見ると、しっかり前を見据えて落ち着いている様子だった。よし、大丈夫だ。
「問題!これから読み上げるふたつの文に使われていない表現技法を、ひとつ答えなさい。『誠実さという眼鏡をかけ、優しさという帽子を被り、彼は私の前に現れました。しかし、優しさの無い、ただの、ただのオッチョコチョイだったのです、本当の彼は!』」
バシッ!
他の解答者の手が動く前に、未希が電光石火の速さでボタンを押した。
「体言止め」
ピンポーン!正解の音が鳴り響いた。よしっ!さすがだ、未希っ!




