青春の嗚咽
早稲山実業があと一問正解すれば俺と冬真のペアは敗退が決定するというところまで追い詰められた。このまま負けるわけにはいかない。俺と冬真の気持ちは同じだった。
「問題!『失敗』という意味を持つ、『さ』から始まる二字熟語を答えなさい」
え?さ!?そんな熟語、あったか?俺がそう思った次の瞬間、ボタンを押す音が鳴り響いた。
バシッ!
またしても、及川さんだった。
「蹉跌」
彼女は特に興奮している様子も無く、ひょいと顔をマイクに近づけてあっさりと答えた。コンビニで「レジ袋は如何なさいますか」と訊かれて「お願いします」と答えるときのようなテンションだった。
ピンポーン!容赦なく、正解の音が響いた。
「早稲山実業初等部の坂本君、及川さん、勝ち抜けです!成淵学院初等部の鶴川君、阿川君は残念ながら敗退となります」
神田さんのアナウンスが耳から入ってきたが、俺は放心状態で、何が起きたか脳が理解するのに数秒かかった。横を見ると、冬真も俺と同じように愕然としている。俺は冬真に「冬真、行こう」と言ったが、冬真は脱力していてすぐには立ち上がれなかった。俺が腕を引っ張ると、ようやく冬真は「あ、ああ…ごめん」と言って、立ち上がった。
双葉と未希は、優しく笑顔で俺達を待っていてくれた。もちろん、俺達のために頑張って作った笑顔だ。俺はその笑顔を見た瞬間、我慢出来なくなって、目から涙がポロポロ落ちた。冬真も同じだった。俺達は肩をふるわせて泣いた。双葉は「ご自分を誇りに思うべきですわッ!全力で戦った結果ですものッ!わたくしにとっても、誇りですわッ!」と言ってくれた。未希は強い目で、「部長…わたし、絶対に…絶対に二人の分も戦って、勝ち上がるから!二人の悔しさ、晴らしてみせるから!」と言った。強い目だが、うっすらと涙が浮かんでいた。そして少し肩がふるえているように見えた。それは間違いなく、武者震いだった。
「ありがとう。ありがとう…」
俺は涙が止まらなくて、そう言うのがやっとだった。
そのあと、Bブロックの七番から十二番までのペアの戦いが行われた。二回戦に進むことになったのは、下記のペアである。
Aブロック
成淵学院初等部(小山・工藤)
律己館小学校(鷲山・小笠原)
早稲山実業初等部(小室・小野木)
作針学舎初等部(橋本・市川)
紫電学院初等部(清水・戸川)
一騎学舎初等部(持田・柏木)
Bブロック
早稲山実業初等部(坂本・及川)
明鏡学園小学校(久我山・石口)
無心学舎初等部(北山・樋口)
極東亜学院初等部(宇津木・齋藤)
一致社小学校(金山・織田)
紫電学院初等部(秋山・鈴木)
「ふたつのペアがどちらも勝ち残ったのは、紫電学院と早稲山だけか…悔しいけど、さすがだな」
俺は、勝ち抜けした学校が分かるように赤の太い油性マーカーで線を書き加えられたトーナメント表を見ながら、そう言った。
「双葉と工藤さんは、次は律己館の鷲山さん達と戦うんだね。強敵だな」
冬真が眉間に皺を寄せてそう言ったが、未希は明るい笑顔を見せていた。
「誰が相手だろうと、全力で戦うのみっ!!」
頼もしいし、可愛いし、ほんと天使過ぎる…俺はあらためてそう思った。




