早稲山実業戦 2
俺は再び深呼吸してから、読み上げ係の神田さんに視線を向けた。
「問題!タイトルを平仮名で表記したときに、二文字になる散文の小説作品を三つ、作者名とともに挙げなさい」
俺を含め、解答者の四人は黙り込んでしまった。森鷗外の『雁』とカフカの『城』はすぐに浮かんだが、あとひとつが出てこない…え〜と、え〜と…!
バシッ!
ボタンを押す音に驚いて横を見ると、押したのは早稲山実業の及川さんだった。細身でおとなしそうな女の子だが、その瞬間は獲物を見る虎のような鋭い目をしていた。
「フランツ・カフカ『城』、森鷗外『雁』、長塚節『土』」
一秒ほど、静寂が場を包んだ。
ピンポーン!正解の音が鳴った。うわ、そうだ、『土』があった!くそっ…悔しい…!
「問題!タイトルに、助詞の「の」が含まれている作品を五つ、作者名とともに挙げなさい」
え〜!五つも?多過ぎだろっ!俺は心の中で抗議した。え〜と、『風の又三郎』、『砂の女』…あと…何かあったっけ?
バシッ!
少し離れた場所でボタンが押される音は、もはや俺にとって恐怖の対象になっていた。横を見ると、また及川さんが押している。あの子、ヤバいかも。
「檀一雄『火宅の人』、江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』、川端康成『伊豆の踊子』、レイモン・ラディゲ『肉体の悪魔』、大江健三郎『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』」
…ピンポーン!
正解だった。やっぱりあの子、かなりの強敵だ。まあ早稲山実業だし、当たり前なのだが…。俺は小声で冬真に「あの子、ヤバいな!」と言った。冬真は「絶対、諦めないで全力で戦おう」と前を見据えたまま返答した。
「次の問題は、解答席の後ろに設置されたホワイトボードに書いて答える問題です。解答者の皆さんは、すぐに書けるように立って、ホワイトボードマーカーを手に取って下さい」
俺達は神田さんの指示に従って立ち上がり、ホワイトボードマーカーを握りしめて待機した。
「問題!格助詞が七個以上含まれている文をひとつ作り、解答用のホワイトボードに書いて答えなさい。書き終わってから、ボタンを押して下さい」
え?嘘でしょ?何、その問題!難し過ぎる!格助詞って、『が』とか『の』とかだよな…え〜と…他に何があったっけ。俺が必死に思い出そうとしていると、及川さんが凄い勢いで文を書き始めた!ヤバい!
バシッ!
ボタンを押されてしまった!
『私が彼の先生にこの手紙を書いて、自転車で学校へ届け、先生から彼に渡してもらった。』及川さんはそう書いていた。紫電学院初等部の先生が及川さんの答案をチェックし、結果を読み上げ係の神田さんに伝えた。
ピンポーン!正解だった。ヤバい。三ポイント取られてしまった。
「次の問題は口頭で答える問題ですので、解答者の皆さんは着席なさって下さい」
俺を含む四人の解答者は言われた通り着席し、神田さんが言葉を発するのを静かに待った。
「問題!衣、」
バシッ!
及川さんがボタンを押した!おいおい!まだ「衣」しか言ってないぞ!あ、これ…枕詞の問題か!
「しろたへの」
及川さんが冷静に答えた。
ピンポーン!正解の音が響く。
「お見事です、及川さん。この問題は『衣、裾、袖、波などにかかる枕詞といえば何?』という問題でした」
神田さんが解説をした。うわ、及川さん一人で四ポイントかよっ!…ていうか、坂本君は及川さんのマネージャー的存在なのかっ?俺は激しく動揺しながら、そんなことを考えていた。未希と双葉の方を見ると、二人とも心配そうな目で俺達を見ている。くそっ、自分が情けない。安心して、喜ばせてあげたい…。冬真も俺と同じように嫌な汗をかいているような表情をしていたが、まだ目は死んでいなかった。戦う目をしていた。




