新たなる挑戦 5
「『湯桶読み』って名付けたお方、小一時間、問い詰めたいですわッ!」
熟語の構成に関する勉強をしていた双葉が、参考書を読みながら突然、キレた。
「あ、俺分かったよ。なんで頭に来たのか。それ、『ゆおけ』とも読めちゃうから、めちゃくちゃ分かりにくいんだよね。『訓読み+音読み』という形の熟語に呼び名を付けるなら、『合図読み』『雨具読み』のどっちかにすべきだったと思うんだよなあ。『合体』とか『雨天』って熟語があるから、『あい』『あま』が訓読みだっていうのはすぐ分かるし、『図る』『具える』も小学二年生、三年生で習う漢字だから、『図』と『具』が音読みだっていうのも分かりやすい。『雨』の音読みの『ウ』は、運動会とかの『雨天決行』でも使われるから、小学生にも馴染みがある。『合体』のときの『ガッ』も、ロボットがでてくるアニメとか特撮ヒーローもので使われたりするから同じように馴染みがある。それに対し、小学生に『湯桶』を見せて、『ゆとう』と読める人はどれだけいるか?あんまりいないと思うんだよね。読めないだけならまだマシなんだけど、『ゆおけ』と読んでしまう。『ゆおけ』も、そこまで使う機会が多い言葉ではないけど、少なくとも『ゆとう』よりは絶対に多い。そして『ゆおけ』も読み方として正しい。これはもう『訓読み+音読み』の熟語の呼び名としては致命的だし、双葉が言うように『なんで、よりによってそれを選んで名付けた?』って問い詰めたくなるレベルだよ!」
「わたくしも、本当にそう思いますわッ!このような用語は、分かりやすさを何よりも大切にすべきですわッ!」
「あと、最古の湯桶読みといわれているのは、万葉集に出てくる『手師』だから、覚えておくといいよ!もしかしたら決定戦で出題されるかも知れない。手師っていうのは、習字の先生のことね。字は、『手品師』の真ん中の『品』を取って、『手師』」
俺の説明の内容を、三人はノートに書き留めていた。
「部長、『可愛い』といういみがある古文単語を三つ、挙げてみて」
古文単語の勉強をしていた冬真が俺に問題を出した。
「『うつくし』『かなし』『らうたし』だね」
「正解!部長が『工藤さん三単語』って名付けていたやつだよね」
冬真がそう言うと、未希が顔を赤くして「ちょっと!そんなこと言ってたの?やめてよ恥ずかしいから!」と言って俺の肩をペシッと叩いた。
「古文単語は、名詞が一番覚えやすい気がするね。なぜか分からないけど。『はらから』は兄弟、『ふすま』は布団、『かいもちひ』は牡丹餅、か。『かいもちひ』が出てくる有名な話、あったよね?何だっけ?」
冬真が訊いた。
「ああ、『宇治拾遺物語』の『児のそら寝』だね。あれ、めちゃくちゃ面白くて大好きだよ」
俺がそう言うと、未希が「どんな話なの?」と興味を示した。
「お坊さん達が、ぼたもち作ろうぜって言い始めたんだけど、そこにいた子供は『寝る時間だし、寝ないのは良くないよね』と思って寝たフリをしていたんだよ。ぼたもちが出来たからお坊さんは起こしに来たんだけど、『一度呼ばれてすぐ起きたんじゃ、いかにも待っていたみたいで、恥ずかしいな』と思って、起きなかったんだ。もう一度起こしにくるかと思ったら、『起こさない方がいいよ。寝てるんだし』って余計なことを言うお坊さんがいたもんだから、起こしてもらえなかった。そしてお坊さん達がぼたもちを食べる音が聞こえてきて、ついに我慢出来なくなった子供は、『はい!!』って急に返事して、お坊さん達は大爆笑したんだよ」
「キャハハハ!なにそれ!めっちゃ可愛い!」
未希は笑った。俺はいつも通り、『確かに可愛いけど、お前の可愛さには負けるだろ…!』と心の中で突っ込みを入れた。




