新たなる挑戦 4
『小学生国語王決定戦』に向け俺達が勉強を始めたその日、俺は部員達にひとつ提案をした。
「毎週水曜日にローテーションで行っている研究発表なんだけど、決定戦が終わるまでは休止しないか?とりあえず優勝を目指して、勉強に集中しようぜ。お互いに問題を出し合ったりすれば、絶対楽しいと思うんだよね」
俺の提案に、皆は賛同してくれた。勉強を初めて一週間ほど経った頃、部室に入ってきた冬真が鞄から古文の単語集を出しながら言った。
「この前、職員室で青木先生と話したんだけどさ。参加校の中には、早稲山実業初等部も含まれてるらしいぜ」
「え〜?まじで?早稲山実業って、都内屈指の難関校じゃん。ていうか青木先生、県内だけじゃなくて東京の学校にも声をかけてたのかよ!」
俺は驚いて返答した。
「俺もそれ、思った!やること大胆だよな、あの人。ところで、大胆なことを表す四字熟語『大胆不敵』とよく似た四字熟語があるの知ってる?最初の二字だけ変えるんだけど」
「…そんなのあったっけ?何?」
「『豪胆不敵』だよ!これ、覚えといた方がいいよ!」
「よしっ!覚えておく!ありがとう!」
俺達はこんな感じで、それぞれが勉強して得た知識を共有するよう努めた。
「鶴川君、古典の作品の中で、特に調べておいた方が良さそうなものって、何かある?」
未希に訊かれて、俺はしばらく考えてから、こう答えた。
「まずはやっぱり『枕草子』『方丈記』『徒然草』の三大随筆じゃないかな。『枕草子』だけ平安時代で、あとのふたつは鎌倉時代なんだよね。そういう、成立した時代も覚えておくと良いかもね。『源氏物語』は、あんまり出されないような気がするんだよな」
「え、どうして?」
「あれって、男女の色恋沙汰の話だからさ。小学生の俺達には出さないんじゃないか?アハハハ!あ、でも、ちょっと待てよ。ひとつ気になることはあるんだよな」
「え、何?」
「青木先生って、国語好きなだけじゃなくて、クイズマニアでもあるらしいんだよ。あの人は平成生まれだけど、昭和の時代のクイズ番組の映像まで、探して観てるらしい。それで、一九八九年の第十三回アメリカ横断ウルトラクイズの決勝は、クイズ好きの人達の間では伝説とまで言われているらしいんだけどね」
「ふむふむ」
「その決勝の最後の問題で、優勝者の長戸勇人さんが答えた正解が、『雨夜の品定め』だったんだよ。光源氏が頭中将達と、女性の品評をする話だ」
「品評って…なんかヤダ。物じゃないんだからさ」
「俺もあの話は好きじゃないよ。女の人を上・中・下に分けて論じるなんて、誰が何と言おうと俺は軽蔑するね。まあ、そんなことやってたから最後は後悔して出家するわけだが」
「今読むと女性蔑視にも思えるけど、それを書いているのが女の人だっていうのも面白いよね」
「しかも天才的な才能を持つ女の人なんだから、困ったもんだよ。アハハハ。まあ、とにかく『雨夜の品定め』は覚えておいた方がいいと思うよ」
俺は正直、人間関係がドロドロしている『源氏物語』は未希にはあまり読ませたくないな…と思っていた。未希にオススメするなら、『更科日記』の方がいいな…などと考えていた。菅原孝標女は、どことなく未希っぽいところがある。でも、その菅原孝標女は『源氏物語』に死ぬほど憧れていたんだよな…。俺は、人間というのは本当に面白いとあらためて思った。




