たこ消失事件 3
寿司屋のカウンター席に並んで座った暗智大五郎と小森少年は、まず事件の流れを再確認することから推理を始めた。
「ええと…まず、君はキッチンで、たこ焼き専用のホットプレートを使い、たこ焼きを作っていたんだよな」
「はい、そうです。」
「ホットプレートの大きさはどれくらいだ?」
「円形で、直径三十センチくらいだと思います」
「なるほど。てことは…二十個くらいか?一度に作れるたこ焼きの数は」
「そうですね。それくらいだと思います」
「そのときも、作れる最大個数で作っていたんだよな?」
「はい、そうです」
「たこ焼き二十個か…たこ無しのたこ焼きを事前に用意しておく『すり替えトリック』の線を考えてみたのだが、たこ焼きを二十個も隠し持ってキッチンに行き、ホットプレートに乗っていた熱々のたこ焼きを二十個もポケットに入れて玄関に戻るのは無理があるな」
「確かにそうですね。二、三個はその場で急いで食べたとしても、十七、八個をポケットに入れなきゃいけませんからね。蝶を一匹ポケットに入れただけでも潰れてしまって、エーミールに強烈なひとことを言われた窃盗犯がいるくらいですからね。絶対に無理ですね」
「確かにそうだな。ちなみに標本の蝶を数えるときは、一頭、二頭と数えるらしいぞ」
「そうなんですか。初めて知りました」
「…ちょっと待て。そもそも、宅配便の配達員なわけだから、配達物…つまり箱は持っているじゃないか!その箱の中に全く同じホットプレートを用意していたんじゃないか?たこ無しのたこ焼きを事前に乗せていたホットプレートを」
「そ、それです!それですよ暗智さん!さすがだ!」
「その配達員が持ってきた箱の中身は確認したのか?」
「いえ、まだです!僕の部屋のテーブルの上に置いてあります!」
「よし!寿司を食べ終わったら、確認しに行くぞ!」
二人は食事を終えてから、小森少年の自宅に向かった。暗智大五郎はテーブルの上に確かに箱があることを確認し、「小森君、慎重に開けてみたまえ!気をつけるんだぞ!爆発物かも知れないから!」と言って、自分は少し離れた和室に行き、三センチほどの隙間を残してふすまを閉め、その隙間から小森少年の開封の様子を見守った。
「暗智さん!ひどいですよ!それが大人のやることですか!普通は子供を避難させて、あなたが開けるでしょ!」
「すまん!小森君!俺にそんな度胸は無い!」
小森少年は呆れ顔で箱を開けた。果たして中から、小森少年が所有していたホットプレートが出てきた。上には冷めきったたこ焼きが可愛く並んでいる。
「あった!やはり、ありました!ここに、僕のホットプレートが!おそらく、怪人一億面相はこの箱の中に、たこ無しのたこ焼きを乗せた全く同じホットプレートを入れて、ここに来たんです!そして僕が印鑑を探している間に、キッチンに行き、すり替えたんです!」
「…やはりそうか!」
「あっ!暗智さん!箱の中に、紙が入っていました!何か書いてあります!」
「なんだとっ?」
暗智は和室から出てきて、小森少年の手から紙片を奪い取り、テーブルの上に置いた。そこには、こう書かれていた。
『おそらく今、あなた達は私のすり替えトリックに気づいたところでしょう。お見事、正解です。しかし私は、怪人一億面相ではない。私の名前は、下記の文章を解読することによって分かる。名探偵と、その助手の少年よ。この謎を解いてみたまえ。
とある大学の研究室で、教授と学生四人が会話をしていた。
教授「今度、君達を高級フランス料理のお店に連れて行ってあげるよ」
学生の一人である徳田冬樹は、こう言った。
「わあ!本当ですか?嬉しいなあ」
学生の一人である水上奈津恵は、こう言った。
「きゃ〜!嬉しい!約束ですよ?期待してますからね!」
学生の一人である鎌田健一郎は、こう言った。
「俺、フランス料理って初めてですよ!楽しみ!」
学生の一人である向井大地は、こう言った。
「俺、エスカルゴ食べたい!」
この四人の学生のうち、三人は本当は期待していない。期待している唯一の人物が、犯人である私と同じ名前をもつ者だ。』
「…どういうことでしょうか、これは?」
紙片に書かれている文章を暗智と一緒に読んでいた小森少年は、眉間に皺を寄せながら訊いた。暗智は、激しく燃えるような目をして答えた。
「これは犯人から私達への挑戦だよ。奴は勝負を挑んできたんだ。この謎を解いてみろ、と!」




