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たこ消失事件 1

 その後も岩瀬は月曜日になる度に、俺に田辺とのデートの報告をしてきた。それは習慣化していた。俺はそれを嫌がる理由も無いし、むしろ面白いので、何度も突っ込みを入れながら聞いていた。水曜日は相変わらず国語クラブで研究発表が行なわれていた。双葉は自作の小説『怪人一億面相 たこ焼きの中のたこ消失事件』の内容に納得がいかず、推敲を繰り返していた。俺は双葉に頼まれて研究発表の順序を入れ替え、双葉の発表を先送りにしていた。そして、ついに完成したとのことで、双葉の研究発表が行われる日がやってきた。

「オーッホッホッ!!皆様、大変ながらくお待たせ致しましたッ!わたくしの新作…まあ新作と言っても名探偵・暗智大五郎シリーズなので前回の作品の続きであるとも言えるわけでございますが…とにかくッ!完成したのでございますわッ!」

 そう言って双葉は、十枚ほどの原稿用紙のコピーを俺達に配った。

「ついに完成したのですね。『怪人一億面相 たこ焼きの中のたこ消失事件』が。ボクはとっても楽しみにしていましたよ。あまりにも楽しみで、夢の中にたこ焼きが出てきたくらいです」

 おいおい、絶対嘘だろそれ!と俺は心の中で冬真に突っ込みを入れてから、こう言った。

「前回のエビチリ事件のやつは、大問題作だったからな。あまりにも奇天烈な内容だったんで、トラウマになってる」

「前回の双葉さんの小説、すっごく面白かったぁ〜!めちゃくちゃ楽しみにしてたんですよ!新作!」

 未希はニコニコしながらそう言った。相変わらず、天使過ぎる。

「オーッホッホッ!ありがとう、工藤さん!わたくし、あなたに笑って欲しくて、今回も頑張りましたのよ!あなたの笑顔こそ、わたくしの執筆エネルギーの(みなもと)なのですわッ!」

「えっ。俺と冬真の笑顔はエネルギーにならないの?」

 俺がふざけてそう言うと、双葉は「一応、少しはなりますけど、メインのエネルギーは工藤さんですわッ!オーッホッホッホッ!」と言って笑った。

 俺は「何だよ、少しなのかよ!」と不満顔で言ってから、『たこ焼きの中のたこ消失事件』を読み始めた。


 怪人一億面相 たこ焼きの中のたこ消失事件 

                  小山 双葉      


 その日は朝から分厚い雨雲が垂れ込めていた。これから起きる怪事件を予言するかのように、近所の犬がワンワンではなく、ニャ〜ニャ〜と吠えていた。名探偵・暗智大五郎のスマホが鳴り、暗智は「もしもし」と言った。電話の相手は「亀よ、亀さんよ」と答えた。これは、なりすまし対策の合言葉であった。暗智は相手が本物の少年探偵団・団長の小森少年であることを確認し、「どうした、小森君。事件か?」と訊いた。

「はい、暗智さん。大事件です。家でたこ焼きを焼いていたのですが、確かに中にたこを入れたはずなのに、食べたら入っていなかったんです。」

「消失トリックだな。犯人はおそらく手品師だろう。イリュージョンってやつだ」

「疑わしい人は三人います」

「ほほう。誰だね」

「一人目は、僕自身です。ぼーっとしていて、たこを入れ忘れただけという可能性も否定出来ません」

「しかし君はさっき、『確かにいれた』と言っていたじゃないか」

「人間の記憶なんて、あてになりませんよ。僕は幼稚園時代の友達に久しぶりに会って、『元気だった?田中君』と言ったら『鈴木だよ』と言われた実績があります」

「忘却の実績としてはかなり強力だな。他にはあるか?そういう実績」

「幼稚園時代の友達に会って『久しぶり、鈴木君』と言ったら『田中だよ』と言われた実績もあります」

「えーと、つまりその二人は雰囲気が似ていたのか?」

「いえ、全く似ていません。ライオンと宇宙船くらい似ていません」

「かなりの差異だな。で、二人目の容疑者は?」

「うちで飼ってる猫です」

「中のたこを猫が食べたということか?しかし、それならたこ焼きに損傷があったはずだろう。君が食べようとしたとき、たこ焼きは綺麗な形状を保っていたのだろう?」

「はい。しかし、さっき猫を疑って『おいミケ太郎、お前の仕業か?』と訊いたら、『ニャ〜』と言いました」

「決定的な自白だな」

「そうとも限りません」

「どういうことだ?」

「ニャ〜をローマ字で表記すると、Nから始まります。つまり、ノーを意味する可能性があります」

「さすがの推理だ、小森君。三人目の容疑者は?」

「怪人一億面相です」

「どういうことだ?」

「実は、僕がたこ焼きを焼いていたとき、玄関のチャイムが鳴って、それは宅配便の配達だったんです」

「ほほう」

「僕は一度キッチンに行き、たこ焼き専用ホットプレートの温度設定を『保温』にしました。たこ焼きはホットプレートに乗ったままの状態でした。そして、宅配便の伝票に押す印鑑を探しに和室に行ったんです。その間、配達員は玄関にいたものと思っていましたが、実はキッチンに行って、たこ焼きの中のたこを抜き取った可能性があります」

「しかし、その場合も損傷が生じるはずだろう」

「配達員が超能力者だった可能性があります。僕はその可能性に気づいたとき、ミケ太郎に『配達員、超能力者かな』と聞いたら、何も言わなかったんです。全く鳴かなかった」

「『ニャ〜』が無しってことは、つまりノーではない…イエスということか!」

「さすが暗智さん。その通りです」

「しかし待てよ、小森君。もしミケ太郎が犯人だとしたら、配達員に罪をなすりつけている可能性もある」

「はい。僕もその可能性を考えて、近所を歩いていた野良猫を三匹、連れてきました」

「なるほど。客観的な判断を下せる第三者委員会というわけだな。あるいは裁判員制度の裁判員猫とでも言うべきか」

「はい。で、猫達の話し合いが終わったところで、僕は『結論をお聞かせ下さい。ミケ太郎は犯人ですか?』と言いました」

「そしたら?何て言った?」

「三匹とも、ニャ〜と言いました」

「おお…!ニャ〜はノーの意味。つまりミケ太郎は無罪というわけか!」

「はい。やはり猫裁判員制度は完璧な制度です」

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