岩瀬のデート報告 3
「…で、水族館に着いてからはどうだったんだ?二人で仲良くアジの開きの群れを観察したのか?」
「いや、秋刀魚が大根おろしと一週間に泳いでるのを観察して…って、冗談だよ。アハハ!」
「…教室戻っていいか?俺」
「待て!待ってくれよ。俺は報告したいんだからさ!田辺さんはまず、八千匹のマイワシが泳いでいる水槽を観て大興奮していた。八千匹だそ、八千匹!凄くないか?」
「まあ確かに凄いけど、イワシが二匹泳いでいます、観に来て下さいっていうのはやはり無理があるからな。数で勝負せざるを得ないのだろう」
「…お前ってほんと性格悪いな。まるで銀色に輝くオーロラみたいなんだよ!本当に綺麗で…」
「いい比喩を使うね。直喩だよ、それ。田辺さんと、どっちが綺麗だった?」
「それは田辺さんに決まってるだろ!彼女がイワシごときに負けるはずはない!」
「何だよ、お前!さっきまでイワシを絶賛してたくせに!」
「田辺さんの輝きを前にしたら、イワシもエイもイルカも、ただの魚に過ぎないんだ!」
「いや、だからイルカは哺乳類だって言ってるだろ」
「俺は田辺さんと美術館に行きたいとは思わない。彼女の輝きの前ではモナ・リザもミロのヴィーナスも、色褪せて見えてしまうからな」
「サモトラケのニケは?」
「俺は田辺さんの顔の方が好みだ」
「サモトラケのニケは顔、無いだろ。適当なこと言うなよ」
「続いて田辺さんと俺は、クラゲがいるエリアに向かった。揺れるように泳ぐクラゲは俺の恋心を表現しているかのようで、俺は胸打たれたんだ!」
「…お前ってそんなロマンチスト文学者みたいなキャラだっけ?親の前ではそのキャラ隠しておけよ?多分、困惑するから。あと俺は刺されたことあるから、苦手なんだよクラゲ。めちゃくちゃ腫れて、最悪だった。あ、でもキュウリと一緒に春雨に入れたりすると美味しいよ。クラゲとキュウリのピリ辛春雨」
「ピリ辛なのは春雨ではなく恋だ。常に傷つくリスクがある。だからこそお互いに思いやりを持つことが大切なんだ」
「お前がクラゲで田辺さんがキュウリってことだな」
「おい、俺の女神をキュウリ呼ばわりしないでくれよ」
「じゃあクラゲと女神が春雨に入ってるわけか」
「話をややこしくしないでくれ。俺達は具材じゃないんだ。美しい大海原で出会ったクラゲと…クリオネみたいなものだ」
「クリオネって天使とか言われてるけど、実は肉食で結構怖い生物なんだぜ」
「じゃあ訂正する。クリオネではない。あ、そうだ。お前に言っておきたいことがあるんだ」
「何?」
「俺と田辺さんは、実は正式に付き合い始めた」
「えっ!まじで?」
「ああ。水族館から出て、江の島の砂浜を二人で歩いた。そして海に見守られながら俺は告白したんだ」
「おお〜!すごい!」
「『俺の彼女になってくれませんか』と言ったら、彼女は小さな声で『はい…』と言って頷いてくれたんだ」
「おお〜!」
「それでな、俺と田辺さんは、周りから冷やかされたりしないように、学校ではこれまで通り普通に過ごすことに決めたんだ。急に教室でイチャイチャし始めたら、絶対周りからあれこれ言われるだろ?だからお前も、これまで通り普通にしていてくれ。頼む」
「分かった、分かったよ。良かったな、岩瀬」
俺は岩瀬の告白が成功したと聞いて、とても嬉しかった。岩瀬だけじゃなく、俺は何度か話したことで田辺に対しても友情のようなものを感じ始めていたので、田辺に対しても「良かったな!」と心から言ってやりたい気持ちだった。あいつは俺に対しては男みたいな態度で絶してくるし、男女の友情ってやつが成立する可能性があるような気がしていた。




