岩瀬のデート報告 2
「で、水族館に着くまでの間、どんな話をしたんだ?田辺と」
「え〜と…めちゃくちゃ緊張してたからあんまり覚えてないけど…あ、俺が田辺に質問したんだ!」
「どんな質問?」
「まず初めに、『好きな寿司ネタって何?』って」
「え?何だよその質問!最初の質問が寿司ネタって、おかしいだろ。しかもこれから水族館行くってときに、なんで捕らえられて米の上に乗せられた魚の話をするんだよ。不謹慎だろ」
「え?不謹慎なのか?」
「知らん!多分、不謹慎だ!…で、田辺は何て答えたんだ?」
「『えー!何その質問!』って笑いながら、『う〜ん、イクラかな』って。めちゃくちゃ可愛くないか?」
「まあ確かに、『大トロかな』よりも『イクラかな』の方が十倍くらい可愛いな。何故かは分からんが」
「だろ?薄紫と白のチェックのワンピースで『う〜ん、イクラかな?』だぞ?破壊力やばすぎるだろ」
「お前のデレデレした顔が目に浮かぶよ。で、他にはどんな質問したんだ?」
「え〜と、あ、そうそう。田辺が電車の中で『そのTシャツ、珍しいTシャツだね』って言ってきたから、『あ、これドードー鳥。絶滅動物だよ。田辺さんが好きな絶滅動物って何?』って訊いた」
「…嘘だろ?頼むから嘘だと言ってくれ。何なんだよ、その奇抜な質問は」
「本当だよ。田辺も『えー!何、その質問!』って笑ってた。で、『トキとマンモスくらいしか知らないよ〜』って」
「まあ、そりゃそう言われるだろうな!」
「『トキとマンモスくらしか知らないよ〜』だぞ?めちゃくちゃ可愛くないか!?」
「まあ確かに、『サーベルタイガーとカムチャッカオオヒグマしか知らないよ〜』よりは『トキとマンモスくらいしか知らないよ〜』の方が十倍くらい可愛いな。何故かは分からんが」
「だろ?可愛いという言葉がそのまま人間になって現れたような人だよ、田辺は!」
「そういうのを『可愛さの権化』と言うのだが、それは工藤さん専用のキャッチフレーズだから、勝手に使うなよ?あと、『地上に舞い降りた天使』も工藤さん専用だから使用禁止な」
俺の言葉を無視して、岩瀬は更に報告を続けた。
「そのあと俺は、海の生き物についての素晴らしい知識を披露しようと考え、『ねえ、知ってる?イルカって魚じゃなくて哺乳類なんだよ』と田辺に言ったんだ」
「…お前それ、逆にバカだと思われるぞ、確実に。そんな誰でも知っているようなことを、自慢気に言ったら。…ていうかそれ、俺が前に教えたことじゃん!お前がイルカを魚だと勘違いしてたから!」
「安心しろ、田辺さんは心が綺麗なお方だから、お前と違って人様に対して『この人バカ』なんて失礼なことを思ったりはしない。お前は自分がそういう人間だから、『人もそう思うだろう』などと考えてしまうんだ」
その岩瀬の言葉を聞いて、俺が『はぁ?それどころか俺は田辺に蹴りを入れられたのだが。蹴りを入れるのは失礼とかいうレベルを超えているだろう!』と心の中で叫んだのは言うまでもない。
「で、田辺は何て言ったんだ?お前がその、幼稚園児でも知ってそうな知識を恥ずかしげもなく披露したとき」
「『うん!そ、そうだよね!アハハハ!』と言って笑ってたよ。こころなしか笑顔が引きつっていたな」
「そりゃそうだろ。他には何か、覚えていること無いのか?会話の内容で」
「あ、いま思い出した。田辺も俺に質問してきたんだ」
「え、何?何を訊かれた?」
「『岩瀬君、好きな魚は何?』って訊かれた。『アジの開きかな。それか、ほっけ』って、答えた」
「…お前、いい加減にしろよ。水族館に向かってる最中だということを考慮に入れて質問を解釈しろよ。田辺が期待していた答えは、カクレクマノミとかだろ」
「え?でも、水族館にもアジはいたよ」
「でも、アジの開きは泳いでなかっただろ?」
「うん。確かに、開かれる前のやつだった」
「いやいや。べつにそのアジ、お客さんが帰った後に『閉館時間なだけに、「お開き」です!』とか言って開かれるわけじゃないからな?…もう、お前と話してると頭痛がしてくるよ…」
俺はそう言って頭を抱えた。




