田辺との対話
その後も、岩瀬と田辺が水族館に行く日がやってくるまでの間に俺は二回、田辺に呼び出された。
一回目は田辺が購入した服について意見を求められた。ラプンツェルと同じ紫ではあるが、ラプンツェルが着ているものより薄い紫をベースにしたギンガムチェックのワンピースという説明だった。袖は、ふんわりしたパフスリーブだと田辺は言った。俺はギンガムチェックやパフスリーブという言葉をそのとき初めて聞いた。ギンガムチェックは白と組み合わせたシンプルで爽やかなチェック、パフスリーブというのはふんわり膨らんでいるデザインの袖のことだと田辺が説明してくれた。そう言えば、ラプンツェルが着ている服もそんな感じの袖だった気がする。俺は「いいんじゃないか?岩瀬がデレデレして骨抜きにされてる様子が目に浮かぶよ」と言った。
二回目は「岩瀬君に関する最新情報、何か無い?いま、興味を持っていることとか!」と訊かれたので、「あいつが興味を持っていること?あいつの頭の中は99パーセントが田辺さんで、残りの1は『今日の夜ごはん、何かなぁ』だろ」と返答した。
「99パーセントも私なの?そんなわけ無いでしょ」
「いやいや、間違いなくそうだよ。恋をした人間なんて、そんなものだ。俺なんて100パーセント工藤さんだもん!」
「え?ちょっと待ってよ!鶴川君は100パーセント工藤さんなのに、なんで岩瀬君の中の私は99パーセントなのよ!最初聞いたときは嬉しかったけど、こうなってくると不満な気がしてきた!夜ごはんのことなんて、考えないでよ!」
「…って、俺に怒るなよ!そもそも俺の勝手な予想だからな?岩瀬の頭の中の1パーセントは夜ごはんの献立だというのは。あ、でもな、いいこと教えてやろうか?」
「何よ?」
「頭の中は99パーセントが田辺さんだけど、心の中は100パーセント田辺さんだよ。間違いない」
「…!」
「アハハハハハ!また赤くなったよ?」
「ちょっと!いい加減にしてよね!」
田辺はまた俺に蹴りを入れようとしたが、俺は華麗な動きでそれをかわした。
「あ、あとね、他にも最新情報あるよ!」
「え!何、何??」
「さっきの休み時間、岩瀬と少し話したんだけどね」
「うん」
「最近、田辺さんのこと好き過ぎて、田んぼの地図記号を見ただけで胸がキュンキュンして苦しくなるって言ってたよ」
「え?田んぼの地図記号で?」
「うん。あと、算数で『辺の長さが四センチの正三角形が…』みたいな文を読むと、「辺」って漢字に反応しちゃって、それもキュンキュンするって言ってた」
「あ、それ分かる。私も最近、オーストラリアのエアーズ・ロックの写真を見ただけでキュンキュンするもん」
「え?なんで?」
「岩だから」
「……」
俺は、田辺と岩瀬は良いカップルになると確信した。




