田辺の相談 2
「…で、岩瀬君が好きな服装って、どんなのだと思う?女の子の服装!」
俺は驚きのあまり意識が混濁する中でも、国語好きの人間の性で、『ううう…今、田辺が使った最初の『の』は、準体助詞の「の」だ…』などと、進行している会話と何の関係も無いことを考えていた。
「フリルとかレースが付いてるようなスカートでいかにも女の子って感じにするのと、Tシャツにデニム、スニーカーみたいなラフな服装、どっちが好きだと思う?」
「俺は絶対にスカートの方」
「ちょっと!鶴川君には聞いてないよ!岩瀬君の好みを推測して欲しいの!」
「えー?自分で聞けばいいじゃん」
「はぁ?ちょっと、鶴川君、何言ってるのよ!そんなこと聞いたら、私が好きなのバレちゃうでしょ?あ、そうだ。言い忘れたけど、クラスのみんなだけじゃなくて、岩瀬君本人にも、私が好きだってこと、絶対に言っちゃダメだからね?言ったら殺すわよ」
こ、殺すって…!田辺ってもっとおとなしい子だと思っていたのだが、こんなキャラだったのか?俺はそう思いながら、「分かった!分かったから!落ち着いて!」と言った。
「岩瀬君の好きな芸能人とか、アニメキャラとか、聞いたことない?」
「芸能人は聞いたことないが、アニメキャラなら、かびるんるんが大好きって言ってたよ。アンパンマンの」
「ちょっと!私がどうやって、かびるんるんを参考にしてコーディネートするのよ!ふざけるのもいい加減にしてよね、鶴川君!」
田辺はそう言って、バシッと俺の腕を叩いた。こんなバイオレンスキャラだったのか、こいつ。でも不思議と腹は立たないし、むしろ面白い。岩瀬と付き合ったら、楽しいカップルになりそうだなと俺は思った。
「他には、何か言ってなかった?他のアニメキャラ!」
「えーと…あ、アニメじゃないけど、きかんしゃトーマスが好きだったらしいよ!子供の頃!…ひいっ!」
俺のトーマス発言に堪忍袋の緒が切れた田辺は、俺の尻にバシッと見事な蹴りを入れた。
「鶴川君…私は子供の頃、少林寺拳法をやっていたのよ!あんまりふざけていると、次はもっと本気で蹴るわよ」
そう言って田辺はアハハハハハと笑った。
「いい?鶴川君。かびるんるんとトーマスは禁止。あと、先に言っておくけど、カーズのマックイーンとか、セバスチャン、タマ、シロ、ドラえもん、ピカチュウ、イーブイ、マリオ、ジャイアン、スネ夫…このあたりも全て禁止よ!女の子の、人間のキャラ限定で答えて!」
「あ!そう言えば!ラプンツェル可愛いって、言ってた気がする!」
「おおっ!それ、嘘じゃないでしょうね?嘘だったら命は無いわよ!」
「ほんとです!ほんと!絶対ほんと!」
俺はほとんどおびえながら答えた。
「…よし。ご苦労だった、鶴川君。参考にさせてもらうわ…フフフ」
田辺は満足気にそう言って去っていったが、俺にはその背中は、魔城に帰る魔王の背中に見えた。怖すぎるだろ、田辺!付き合ったら一億パーセント、尻に敷かれるぞ、岩瀬っ!…俺は心の中で叫んだ。




