未希への誓い
「冬真、さすがだな。俺が言おうとしたことを先に言われちゃった感じだよ。きっと双葉も同じ気持ちじゃないかな。そうだろ?双葉」
双葉は何も言わずに椅子から立ち上がり、未希のそばに歩み寄った。
「工藤さん…座っていらっしゃるところ、大変申し訳ございませんが…ちょっと、立って頂けますでしょうか」
双葉はそう言って未希を立たせた。そして、少し動揺している未希の身体を包み込むように、強く抱きしめた。双葉はまた泣いていた。
「工藤さん…わたくし…論評など出来ません…言葉が出てきませんわ…わたくし達のためにあなたが書いてくださった作品は、わたくしにとって大切な大切な、かけがえのない宝物。わたくしが出来るのは、ただ、こうしてあなたを抱きしめることだけ…。本当はきちんと感想を述べたいのです…でも、ごめんなさい…」
未希は幸せそうに微笑みながら双葉に身体を預け、双葉と同じように泣いていた。
「…よし、じゃあ最後は俺だな」
俺はそう言って、立ち上がった。冬真の顔を見て、双葉の顔も見て、それから俺は未希を見た。俺が世界で一番大好きな未希を、まっすぐ見つめた。
「工藤さん。あらためて、この国語クラブに入ってくれて、ありがとう。そして俺達三人に、どんなにお金を出しても買えない、宝物のような作品を書いてくれて、本当にありがとう。俺はこの先どんなことがあっても、君が書いたこの物語を決して忘れない。俺は今、決心した。そして今この場で、君に約束する。俺はいつか必ず、君をヒロインにした物語を書く。この、きらきら輝くような時間をくれた君への感謝と、君のことが世界で一番大好きだという想いを込めて、物語を書く」
俺は少しも照れずにそう言った。双葉や冬真は、俺が本気で未希に想いをぶつけたときに茶化すような奴らじゃないと、分かっていた。 双葉は優しく微笑んだ。冬真は真面目な顔で落ち着いて俺を見ていた。
未希は俺を見て、照れた笑顔で頷いたあと、こう言った。
「可愛く書いてよ?じゃないと怒るからね?」
俺も笑顔で頷いた。
俺がこの物語を書いているのは、今はもう連絡がとれなくなってしまい、会えなくなってしまった未希に想いを届けるためだ。未希は、連絡を取り合えるようにしようとしてくれた。悪いのは完全に俺だった。俺はそのときのことを思い出すと、後悔で胸が張り裂けそうになる。間違いなく、俺の人生最大の後悔だ。
でも、俺は思った。本当に心の底から未希のことが好きなら、後悔の黒い波に飲み込まれて、後悔に負けて、うつむいて、暗い顔で生きていちゃいけない。未希がくれた、きらきら輝くような時間を胸に抱いて、顔を上げて、前向きに生きなきゃ絶対にダメだ。
未希はいつ会っても底抜けに明るかった。周りの人達を太陽のように照らしていた。そんな未希のことを大好きな俺が、うつむいて暗く生きるなんて、絶対にダメだ。当たり前だけど、未希だって毎日の暮らしの中で、きっと嫌なことや、辛いことはたくさんあっただろう。そのうえで、あの明るさなのだ。俺は本当に未希を尊敬する。だから、俺は絶対に後悔に負けない。いつか未希と再会して、あのときのことを心から謝りたい。俺が書いているこの物語は、未希への「本当にごめん」と、「ありがとう」と、「大好きだよ!」を詰め込んだ長い長い恋文だ。この恋文は普通の恋文と違って、相手に読んでもらえない可能性が高い。それでも、俺は奇跡を信じて書く。とてつもなく大きな後悔に打ち克つために。俺が、どんなときも本当の俺であるために。




