冬真の感想
俺は未希の作品を一番早く読み終え、冬真と双葉が読み終えるのを待った。
俺の次に読み終えたのは冬真だった。冬真は読了後、黙ったまま神妙な顔をして机上の原稿用紙に書かれた文字をじっと見つめていた。それはコピーしたものではあったが、冬真にとっては手書きの原本と何ら変わらない、ぬくもりを持ったものに見えていたに違いない。
最後に、双葉も読み終えた。双葉は、泣いていた。「可愛い妹のように思っている」と言っただけで泣いてしまった未希が、この物語を書いたんだ…そう思ったら涙を抑えることが出来なくなったのだろうと俺は思った。
俺は未希の方を見た。未希は緊張を帯びた真剣な顔をしていた。何を言えばいいのか分からない様子で、助けを求めるように俺の顔を見た。
「みんな、読み終わったみたいだね。じゃあ、一人ずつ感想を言ってもらおうかな。まず冬真、どうだった?」
俺はそのとき、本当は言葉が出てこないような心境だった。おそらく冬真も双葉も同じだろうと思った。しかしずっと押し黙っているわけにもいかないので、こういうときに比較的冷静に感想を述べられるのは冬真だと判断して、彼に訊いた。
「みんなもそうだと思うけど、読み終えたとき、言葉が出なかったよ。僕達の国語クラブに入ってくれただけでも嬉しいのに、ボクや部長、小山さんが登場する物語を書いてくれて。この物語はね、伝わってくるんだよ。工藤さんの、あたたかい気持ちが。もちろん、限られた期間で仕上げなければいけないとか、研究発表一回分の時間内に僕達が読み終えることが出来る長さにしなければらないとか、いろんな制約の中で書き上げたことも凄い。工藤さんは物語を生まれて初めて書いたわけだから、なおさらだ。笑いとシリアスのバランスもいいし、褒めたいところはいくらでもある。でもね、ボクはこう思った。技巧とか文学的価値といった言葉は、この物語の前ではとても陳腐なものに思えてくる。意味が無いことに思えてくる。これは、母の日に子供がお母さんに渡した、手紙みたいな物語だよ。その手紙を見て、技巧がどうとか、文学的価値がどうとか論評する人はいないだろ?そんな論評はしてはいけないもの、ただ優しく抱きしめて、俺達の心の中で永遠に大切にしなくちゃいけないもの。いや、大切にしたくなるもの。それが、工藤さんが書いたこの物語なんだ」
冬真の言葉を聞きながら、俺は有島武郎の辞世の句を読んで「ただの少女趣味で、文学的評価に値しない」と評した評論家のことを思い出していた。そんな評論家のような人間にはなりたくない。どんなときも、言葉を見つめるのではなく、言葉の向こうにいる人間を見つめていたい。そのぬくもりを見つめていたい。俺は、そう思った。




