姫君の研究発表 2
俺の称賛の言葉に対し未希は「ありがとうございますっ!」と返答した。
「えー、次はですね、『世界一クラブ』のキャラクター達の素晴らしい多様性を参考にして、私が作ってみたキャラクターと、そのキャラクター達による物語を読んで頂きたいと思います」
未希が相変わらずの可愛さでそう言うと、冬真が
「えっ。工藤さん、物語を書いたの?それは凄いね。楽しみだな」
と言った。冬真は普段、フリーザとスネ夫を足して二で割ったような嫌味なエリート感を漂わせている奴ではあるのだが、このような発言をするとき、そこに「粗探しをして、隙あらばバカにしてやろう」というような邪念は一切、感じられない。本当に一点の曇りもない真っすぐな気持ちで冬真は言う。それが自然に伝わってくる。冬真のそういうところが俺は大好きだった。恥ずかしいし、調子に乗るので本人の前では絶対に言わないが。
「オーッホッホッ!わたくしもワクワクしてまいりましたわッ!同い年とはいえ、わたくし工藤さんのことは可愛い妹のように思っております!その妹が書いた物語…きっと素敵なものに決まっておりますわッ!」
「えー!そんな風に思ってくれていたんですか?双葉さん…」
驚いてそう言った未希は手で自分の口を抑えた。目から涙が溢れてくる。俺達三人はそれを見てアタフタした。
「あっ、あらッ!そ、そんなに感激してくださるのですか…?工藤さん…わたくし、正直な気持ちを述べただけなのでございますが…」
双葉は慌てた様子でそう言ったあと、椅子から立ち上がり未希のもとに行き、背を向けて泣いている未希を優しく抱きしめた。
「さあ、工藤さん!せっかくこれだけの準備をしてきたのですから、泣いている場合ではございませんわッ!わたくし達を、あなたの作った素敵な物語の世界に連れていってくださいませっ」
未希は涙を手で拭ってしゃくりあげながら、俺の顔を見た。俺は笑顔で小さく頷いた。
「あ、ありがとうございますっ!ごめんなさい!で、では、私の作った物語を皆さんにお配りします」
未希はそう言って、俺達に手書きの文字が書かれた原稿用紙のコピーを十枚ずつ配った。
「皆さんにお配りした十枚の原稿用紙に書かれているのは、私が生まれて初めて自分で作った物語です。初めてだから、ヘタクソなところはたくさんあると思います。でも、心だけは精いっぱい込めて書きました!よろしければ、読んでみて下さい」
俺達は黙って未希の書いた物語を読み始めた。双葉も冬真も、見たことが無いくらい真剣な顔で読んでいた。校庭でサッカーをしている生徒が叫ぶ声も、廊下ではしゃぐ生徒の喧騒も、中庭で生徒を呼ぶ先生の大きな声も、優しい風に吹かれ揺れる樹々の梢がたてる繊細な音も、自分が紙をめくる音さえも、俺達の耳には入ってこなかった。俺達はただ一心不乱に、目の前にひろがる物語の世界だけを見ていた。俺達にとって宝物のような新入部員である未希が作った物語、生まれて初めて未希が作った物語だけを見ていた。




