姫君の研究発表 1
そうこうしているうちに、俺の心の姫君であり地上に舞い降りた天使でもあり可愛さ可憐さの権化でもある未希が研究発表をする日が、ついにやってきた。俺は二時間目の授業のあとの休み時間に二組へ行き、また「ラウンジ行かない?」と未希を誘った。
「いよいよだね。研究発表。どう?準備万端?」
「うん。多分…大丈夫だと思う!ちょっと緊張はしてるけど!」
「大丈夫だよ!俺と双葉と冬真が並んで座っているのを見たら、『ナスとカボチャとピーマンだ!』って思えばいいんだよ!」
「えー!私、その三つ結構好きだから、余計緊張しちゃうよ〜!」
「…好きな食べ物見て緊張するって、よく分からん心理だが…だ、大丈夫っ!何か途中で詰まったりしたら、俺が全力でフォローするからっ!」
俺がそう言って未希を勇気づけていると、こちらに向かって一人の男子生徒が近づいてきた。フリーザとスネ夫を足して二で割ったような、あの独特のエリート感…間違いなく冬真である。
「そこにいるのは、部長ではありませんか。それに工藤さんも。何してるの、こんなところで」
「何してるのって、雑談だよ。ラウンジでそれ以外に何をするんだよ」
「読書。あるいは思索。普通にぼーっとすることもあり得るね」
「本気で返答するなよ!」
「…工藤さん。今日の研究発表、頑張ってね。ボクも初めて研究発表したときは何度も途中で詰まったりして、しどろもどろだったんだ。だから『上手にやらなきゃ』なんて考えなくていいよ。国語クラブはアットホームなところだからね」
冬真は俺の突っ込みを無視して、未希に優しくそう言った。未希に優しくしてくれるのであれば、俺の突っ込みなど百回無視しても全然、許すっ!
「ありがとう、阿川君!頑張るね!」
未希は嬉しそうにそう言った。
やがて休み時間が終わり、俺達はそれぞれの教室に戻り授業を受けた。そして昼になり、また授業を受け、あっという間に放課後、つまり未希が研究発表をするときがやってきた。俺と未希はいつも通り廊下で待ち合わせて、部室のあるB棟へ向かった。
部室には既に冬真と双葉が来ていた。未希は発表内容を記したノートを手にホワイトボードの横に立ち、俺を含めた他の三人は椅子をホワイトボードの方に向け、座った。
「えー、それでは、私の研究発表を、始めたいと思います!」
未希は少し緊張した面持ちでそう言って発表を始めた。未希はまず初めに、『世界一クラブ』の主要キャラクター五人の人物紹介が書かれた大きな模造紙を、マグネットでホワイトボードに貼った。それは、単行本の初めに書かれている人物紹介をそのまま書き写したものではなかった。未希の言葉で、より詳しく、所々ユーモアを交えながら紹介している文章だった。俺は、ひいき目無しで素晴らしい紹介だと思った。それぞれがどんなキャラクターであるか非常に分かりやすいし、何より素晴らしいのは、未希のそれぞれのキャラクターへの愛情、作品への愛情がものすごく伝わってきたところだ。結局、一番大切なのはそこだよな…と俺は思った。
未希は『世界一クラブ』のキャラクターの個性が見事にそれぞれ異なるものになっており、そのような多様性こそが物語を面白くするうえで重要なのだという趣旨の解説を行った。さすが、難関と言われるうちの小学校の編入試験を突破しただけのことはある。素晴らしい解説だ。俺は「未希!凄いよ!百点満点どころか、一億点でも足りないくらい!全宇宙で最も分かりやすく可憐で愛くるしい解説とは、まさにこのことだよ!」と叫んで未希の頭をナデナデしたくなったが、部長という立場もあるのでなんとか自制し、「工藤さんの説明、めっちゃ分かりやすい!」と言うに留めた。




