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冬真の四体

 名詞を四つ並べて作る『四体』という新しい定型詩の形を俺が国語クラブの研究発表で提案した翌朝、ショートホームルームが始まる直前に冬真が一組まで来て、「これ、読んで後で感想聞かせて」と言いノートを俺に渡し、すぐに去っていった。開いてみると、冬真が作ったものと思われる四体がたくさん書かれていた。提案した翌朝までにこんなに作ってしまうとは、さすが国語クラブが誇る秀才である。どれどれ…


『ジェームス・ディーン 光源氏 木村拓哉 ボク』


 前言撤回。どこが秀才だよ。完全にふざけてるだろ、あいつ。


『ニュートン ニーチェ アインシュタイン ボク』


 ほら、ふざけてる。めちゃくちゃふざけてる!自宅謹慎とかの処分が必要だろ、これ。


『白黒テレビ 電気洗濯機 電気冷蔵庫 ボク』


 何だよこれ!高度経済成長期の三種の神器ってやつだろ、これ。仲間入りして四種にしたいのか?一家に一台、もとい一人あいつがいるって、絶対嫌だろ。


『川端康成 大江健三郎 カズオ・イシグロ ボク』


 ノーベル文学賞狙ってんのか、あいつ。おそろしい奴だな。


『侘び 寂び ワサビ ボク』


 あ、これはちょっと可愛くて面白いかも。


『大地 空 ボク あなた』


 これ、普通に良いじゃん。急に真面目になった。


『フォアグラ キャビア トリュフ ボク』


 またふざけ出した。珍味として食べられたい願望あるのか?あいつ。


『凡人 凡人 凡人 ボク』


 うわ〜、めちゃくちゃ腹立つ。最悪だな、これ。俺が教えた『重ね』という技法を、こんな風に使いやがって。『悪用』って言うんだよ、こういうのを。

 そこまで読んだところでショートホームルームが始まったので、俺は冬真のノートを机の中にしまった。そして激しい横殴りの雨が教室の窓を打ち続けている様子を眺めながら、未希のことを考え始めた。今日の休み時間は、俺が二組に行ってみようかな。俺は頭の中で四体を作り始めた。


『休み時間 廊下 喧騒 君』


 う〜ん、何かイマイチだな。


『下駄箱 傘立て 雨音 君』


 少し良くなったけど、まだまだだな…。

 一時間目の授業が終わり、俺は二組へ足を運んだ。未希は俺の顔を見るなり、弾かれたように立ち上がって、またちょこちょこ駆け寄って来た。俺は未希のそういうところがめちゃくちゃ好きだ。俺はどう見ても近づいて来ているのだから、動かず待っていても話せるのに、わざわざ駆け寄ってきてくれるのである。『これで、可愛いと思わない男なんて存在するのか?』俺はその日もまた、そう思った。




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