未希という太陽
「せ、先生って…。よし、じゃあ俺が作ったやつを見てもらうことにするね!」
俺はそう言って、自分がこれまで作ってきた四体作品のひとつをホワイトボードに書いた。
『あか あお きいろ おかあさん』
「おお…これは、全て平仮名表記にしているのがポイントだね。平仮名にすることによって無垢な幼児をイメージさせ、更にその三色は、信号機の色とも考えられるし、クレヨンの色なのかな、とも想像させる。それを受けての『おかあさん』なので、全体として幼児期の温かな記憶、母親のぬくもりの記憶が一気に広がる。そんな作品になっていますね」
冬真が、さすがと言うしかない鋭い論評をした。さすが、国語のテストで九十八点と満点しか取ったことが無いだけのことはある。
「冬真、さすがだな。完璧な論評だよ。この四体は全て平仮名なのが最大の特徴なんだ。みんなも作るときは、あえて平仮名にするという選択肢も頭に入れて作ってみると、いいと思う。もちろん漢字の方が良くなるときもあるし、使い分けるのが楽しいんだ。次は、これかな」
俺は次の四体を書いた。
『渡り廊下 旧校舎 陽光 新入部員』
これは、工藤さんが入部してくれた日の記憶を元に作った四体だ。あえて技巧的にせず、素直で爽やかな感じ。どうかな?
「オーッホッホッ!素晴らしいですわ!まさに工藤さんのイメージそのままですわッ!」
「まあ、工藤さんは結構小悪魔的なところもあるんだけどね!」
俺がそう言うと、未希は「えへへ…!さすが部長…よく分かってるね」と言ってニヤリとした。
「ボクも今、頭の中でひとつ作ってみたんだけど、ちょっと発表していいかな?」
冬真はそう言って立ち上がり、ホワイトボードにこう書いた。
『部長 新人 ボク たこ焼き』
「ちょ、ちょお〜〜〜っと待った!でございますわッ!この最後の『たこ焼き』というのは、もしかして、このわたくしのことでございましょうかッ?」
「うん、そうだよ。アハハハ!エビチリ小説に登場させてくれたお礼だよ!」
冬真はそう言って笑った。
「つぎ!わたし〜!」
そう言って今度は未希が、こう書いた。
『不安 転校 未来 希望』
「私、引っ越しをして転校することが決まってから、ずっと、ものすごく不安だったんです。新しい学校で友達が出来るのか。どんな人達がいるのか。でも、転校してきて、クラスのみんなに優しくしてもらって、この国語クラブでも、皆さんが温かく迎えてくれて…本当に、本当に嬉しかったんです。すごく、感謝しているんです。その気持ちを込めて作りました。後半のふたつの名詞の頭文字は、私の名前でもあります。どんなときも、未来に希望を持って生きていくように…そういう両親の想いが込められた名前なんです」
俺は、いつか未希と再会したいという願い、祈りを込めてこの物語を書いている。『やっぱりもう、無理なんじゃないか。二度と会えないんじゃないか…』と不安になったとき、俺は必ず未希の名前のことを考える。
未来への、希望。その名前を持つ人を大好きになった俺が、未来に希望を持たなくてどうするんだ!そんな奴に、未希のことを想う資格は無いぞ!…俺は自分に向かって、そう叫ぶ。
未希の名前が、倒れそうになる俺をいつも支えてくれる。前を向かせてくれる。俺はどんなときも未希の明るさを忘れない。明るく、あたたかく人を照らす太陽のような未希が、どんなときも俺の心の中にいる。




