姫君の構想 1
二時間目の授業が終わった直後、岩瀬がまた俺のところに来て、「マサキ、ラウンジ行こうぜ」と誘ってきた。俺が通っていた小学校には購買部に隣接したラウンジがあり、休み時間などに生徒達がくつろぎながら雑談出来るようになっていた。俺は「ああ、いいよ」と了承したが、その直後、教室に入ってくる未希の姿が俺の目に映った。
「あ!すまん、岩瀬!ラウンジ行くの、次の休み時間でもいい?」俺は即座に岩瀬に言った。岩瀬は「え?どうかしたの?」と目をまるくして訊いてきた。俺は「俺の姫君が来たからだよ。恋い焦がれる姫君がお前にいるのと同じように、俺にもいるんだよ。姫君が」と、耳元で声をひそめて言ってやった。岩瀬は俺の視線が向けられている方を振り返り、未希を見てから再び俺の顔を見た。そして全て察した様子で「あ、ああ!なるほど!分かった、分かったよ。じゃ、次の休み時間に!」と、少しアタフタした様子で自分の席に戻っていった。未希は俺のそばに来て、「友達と話してたみたいだけど、大丈夫?邪魔じゃなかった?」と訊いた。
「邪魔どころか、工藤さんと過ごす、この幸せな時間のために生きてるようなものだよ?」俺は少しおどけた顔で言った。俺は自分の好意はもう未希にバレていると分かっていたので、照れずに何でも言えるようになっていた。そして、それは決して軽口では無かった。未希を笑わせるために少しおどけた顔で言ってはいたが、本心にしっかりと裏付けられた言葉だった。
未希は「キャハハハ!何それ!嬉しい!」と笑った。
「研究発表の準備を進めてるんだけどね、『世界一クラブ』みたいに、全てのキャラクターがそれぞれ異なる個性を持っていて、お互いの魅力を引き出し合うような形が理想なわけじゃん?それを目指して私が物語を書くなら、こういうキャラクターにします!っていう、私なりのアイデアを発表したいと思ってるの」
「それ、めちゃくちゃいいと思うよ!」
「でね、考えていて、『国語クラブ』のみんなが、まさにそれじゃん!って、気づいたの。鶴川君、双葉さん、阿川君、あと、私…」
「なるほど。確かにみんな、個性が違ってるよね」
「うん。でも、そのまま物語にするんじゃなくて、大胆にアレンジしようと思ったの。例えば架空の王国があって、お城があって、国王がいて、そこにみんなが住んでいて…っていう感じで」
「あ、それ最高じゃん。俺はどんなポジション?もちろん、魔王に囚われたミキテリーナ姫を救いに行く勇者だよね?勇者マサキリウス」
「アハハハ!なかなか強そうな名前だね!双葉さんは…フタバーニャ姫かな。私が研究発表をするときに、自分で自分をお姫様にしてたらバカみたいじゃん!自己愛どれだけ強いんだよって思われちゃうよ。だからお姫様は双葉さんにする!」
「フタバーニャ姫か。いいかもね。じゃあミキテリーナは魔法使いだな。勇者マサキリウスとともに闘う、魔法使い。ギガデインとかベホマズンみたいな呪文を使うの!」
「阿川君は…トウマ…トウマ…えーと…」
「アレンジしにくい名前だな、あいつ!」
「キャハハハ!そんなことで責められても、困っちゃうでしょ、阿川君!」
「もう、トウマンモスとかで良くないか?王国にある永久凍土の中から生まれてきた勇者、トウマンモス」
「キャハハハハ!絶対阿川君、怒るよそれ!」
「アハハハ!やっぱり怒るか。じゃあ、勇者トウマーキュリーは?水星からやって来た勇者で、元々は地球に住んでいたんだけど、やたらと知識自慢するから追い出されて水星で一人暮らししてるっていう設定。『コンビニが無くて不便…』とか愚痴りながら、エアコンつけて、なんとか暮らしてるの」
「えー!水星って、昼と夜で寒暖差が五百度以上あるんじゃなかったっけ?まず、エアコンが溶けるよ」
「ギャハハハ!」
楽しい、楽し過ぎる。やっぱり俺は、この時間のために生きている。そして、もしこの先、未希と離ればなれになったとしても、この時間は思い出として心の中で永遠に輝き続け、俺を支えてくれるに違いない…俺はそう思っていた。




