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ラクラミキオアラと物語の宝石箱 42 人間の情熱

「キャハハッ!ペイズリー、赤くなってるよ?可愛いね!キャハハ!」

「そ、そんなことないしっ!」

 これ以上ラクラミキオアラと話しても手のひらで転がされるだけだと判断したペイズリー3世は、ライオンに向かって、こう言いました。

「じゃ、じゃあライオンさん!とりあえず、飛んでみましょうか!高いところまで飛べば、おそらくウシャ・マーレの泉が見えるはずです。見えたら、そこに向かって飛んで下さい」

「うまく飛べるかな…。初めてだから、ちょっと緊張する…」

「大丈夫です!必ず飛べます。あと、どれだけ激しく動いても、背中に乗っているみんなは落ちないので、安心して下さい!」

「わ、分かった。やってみる」

 そう言うとライオンは、片方だけで横幅が八メートルくらいはありそうな巨大な翼を、ゆっくりと動かし始めました。少しねじるようにして下に力強く翼を下ろすと、三倍の大きさになったライオンの巨体が、斜め前に浮き上がりました。

「きゃ〜〜!!」

 背中に乗ったラクラミキオアラたちは叫びましたが、ジェットコースターに乗っているときと同じで、恐怖よりも楽しさが勝っている叫び声でした。彼女たちは身体がとても小さくなっているので、本来であればペイズリー3世にその声はきこえないはずでしたが、会話が出来ないと困ると考えた3世は、お互いの声がきこえるように工夫をして魔法をかけていました。だからラクラミキオアラたちの叫び声も、しっかり3世の耳に届いていました。

「楽しんでるみたいだね、ラクラミキオアラ!さっき、おれのことをからかってくれたから、お礼をしなくちゃいけないよね!」

 ペイズリー3世の言葉をきいたラクラミキオアラは、初め、ペイズリー3世が何を言っているのか分かりませんでした。あまりにも想定外のことを言われたので、きょとんとしてしまったのです。しかし三秒ほど経って言葉の意味を理解したとき、こう思いました。


"ヤバい。あいつって、もしかして、ヤバい奴?"


 ペイズリー3世は幼いころ、祖父であるペイズリー1世に"魔法使いたるもの、どんな恐怖にも耐える強い心を持っていなければいかんのじゃ!"と言われ、遠い遠い、ものすごく東にある不思議な島国に、海を越えて連れていかれたことがありました。ほうき乗りの訓練も兼ねていたので、それぞれ別のほうきに乗り、途中で何度も休みながら行ったのですが、その国には"フジピーハイランド"という謎の大きな公園があり、たくさんの人が集まっていました。

 そこには金属の太い柱で支えられた太いレールの上を走る不思議な乗り物があり、人々はその乗り物のことを"ダ・ダダンパ"と呼んでいました。「あれはヤバい」「早く乗りたい!」などと口々に言っている人々を見て3世は、"ヤバいのに乗りたいって、どういうことだよ!?"と、怪訝な顔をしていました。1世はその乗り物について詳しいようで、"スタートから1.56秒で時速180kmになるのじゃ"とか、"大型ループの高さは49メートルじゃ"とか、色々教えてくれました。

 ペイズリー3世は"おいおい、冗談じゃない。そんなもん、乗りたくない!"と思いましたが、いざ、怪物のようにそびえ立つ"ダ・ダダンパ"を目の前にすると、"こいつに勝たないと男じゃねえ!やってやるぜ!"という気持ちが湧き上がってきて、抑えられなくなりました。10歳以上という年齢制限があったため、1世の魔法で10歳の身体にしてもらった3世は、武者震いしながら"ダ・ダダンパ"に乗りこみ、人生最大のスリルを体験しました。乗り終えたペイズリー3世はしばらく放心状態になりましたが、時間が経って正気に戻ってきたとき、1世にこうききました。

「じいちゃん、ほうきでも似たような経験はできそうだけど、なんでわざわざ、こんな遠くまで連れてきたの?」

 1世は、こう答えました。

「長い旅そのものが、修行になるのじゃ。それだけではない。ほうきや懐中時計は、レールが無いじゃろ?身体も、ある程度自由に動かせる。ジェットコースターは、レールがあって、身体もほとんど動かせない。あの独特の恐怖感は、ジェットコースターでしか、味わえないのじゃよ」

「なるほど…」

 納得した表情でうなずくペイズリー3世に、1世はこう、つけ加えて言いました。

「それにな、わしが一番おぬしに感じて欲しかったのは、恐怖感そのものよりも、人間の情熱なのじゃ」

「…情熱?」

「そうじゃ。あんなものを造らなくても人間は生きていける。むしろ恐怖感というのは、本来は命が危険にさらされたときに感じるもの。人間にとってマイナスの感情であるはずなのじゃ。ところが人間は、わざわざ、ものすごい手間をかけて、それを自分で生み出そうと考えたわけじゃ。自分を怖がらせるものを生み出すために、すさまじい情熱を燃やす。そんなおかしなことをする生き物は、なかなかおらん。じゃから、わしは、人間が好きなのじゃよ。ほほほ…。ペイズリー…おぬしが大人になってから、どんな生き方をしようと、おぬしの自由じゃ。好きに生きるがいい。じゃが、どうせ生きるなら、何かに、情熱を燃やすのじゃ。誰にも負けないほどの、情熱を。そうすれば、おぬしの人生は、きっと輝く」

 1世の言葉をきいた3世は、真剣な目で1世の目を見つめて、静かにうなずきました。


 そんな経験をもつペイズリー3世は、ラクラミキオアラたちを乗せて大空を飛んでいるライオンに、こう叫びました。

「ライオンさん!!1.56秒で時速180kmまで加速してみましょう!!その翼は、それができる翼なんですよ!!」

 その言葉をきいたラクラミキオアラは、こう思いました。


「…終わった」

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