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放課後、部室へ 2

 俺と未希がA棟を出てB棟への渡り廊下を歩いていたとき、後ろから「おい!マサキ!」と声を掛けられた。振り向いてみると、未希と同じ二組に在籍している向井直樹だった。こいつは四年と五年のとき同じクラスだったので知り合いではあるが、俺の中では『友達』ではない。どうも価値観が合わないのだ。

「マサキ、今度の日曜日空いてるか?」

 向井はそう訊いてきた。そもそも、お前と学校以外で会って遊んだことなんて一度も無いだろうが!と思いながら俺は「予定があるけど、なんで?」と訊き返した。

「うちのクラスにいる徳永って男子と、女子三人で遊びに行くことになったんだけどさ。その女子のうちの一人…堀井って奴が、お前のこと気になってるらしいんだよ。顔が好みなんだって。うちのクラスで一番可愛い女子だぜ?そいつ。願ってもないチャンス、棚からぼた餅とは、このことだろ。もちろん来るよな?」

 俺は向井の言葉を聞いて、『今年に入ってから一番のイライラだ』と思うくらいイライラした。

「あのな、向井。俺は『予定がある』と言ったんだ。聞こえなかったのか?それと、これだけは覚えておけ。『誰が一番可愛いか』は、一人ひとりが決めることだ。俺にとっては二組で一番可愛いのは、その堀井って人じゃない」

 俺は向井の目を真っすぐ見ながら言った。向井は俺がイライラしていることを察知した様子だった。

「わ、分かったよ…じゃあ、ダメだったって伝えておくよ。じゃあな」

 そう言い残して去っていく向井の背中から、未希の方に俺は視線を移した。未希は少し動揺したのか、目をぱちくりさせて「アハハ…えっと…あの…部室、行こ!部室!」と言った。俺は笑顔で「うん!」と答えた。

 俺と未希が部室に着いたとき、冬真と双葉はまだ来ていなかった。俺は机の上にランドセルを置き、中からノートを取り出した。俺は未希に見せようと思って、休み時間に『世界一クラブ』の登場人物、八木健太の絵を描いていたのだ。

「これ、どう?健太を描いてみたんだけど」

「わー!いいじゃん!健太感、出てるよ!」

 未希はそう言って笑顔になった。俺は心が真ん中から温まるような幸せを感じた。この人を笑顔にすることが、俺の幸せなんだ。あらためて、そう思った。

 俺と未希はその後、二人でホワイトボードに絵を描きながら冬真と双葉を待った。やがて二人が来て、その日の『国語クラブ』の活動が始まった。

 その日は研究発表の日ではなかったので、各々が小説を書いたり、読んだり、文法の勉強をするなどして過ごした。未希は古文単語の勉強をしていた。中学での学習に向けた備えというわけではなく、純粋に興味があるから勉強しているのだそうだ。俺も古文の勉強は五年生のときからしていたので、未希が古文単語の単語帳をひとつ完成させて「やったー!ひとつ、出来たー!」と喜んで俺に見せてきたとき、しみじみと感じ入っている顔で未希に見とれながら、わざと、少しふざけた顔を作ってこう言った。

「…いと、かなし」

 『かなし』は、切ないほど愛しいという意味を持つ形容詞だ。未希はさっき単語帳に書いたその意味を思い出すのに三秒ほどかかった。そして思い出した瞬間、少し顔を赤くして「バカ!」と、声を出さずに口の動きだけで俺に伝えた。俺は照れ隠しでふざけた顔を作ったが、気持ちに嘘は少しも無かった。それは未希も分かっていたと思う。

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