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放課後、部室へ 1

 その日も6時間目の授業とショートホームルームが終わってから、俺は部室へ向かおうとした。そのとき俺の頭の中に、『ちょっと待てよ。工藤さんも部室へ向かうのだろうし、俺は六年一組、彼女は二組で、すぐ隣だ。一緒に向かうのが自然じゃないか?』という考えが浮かんだ。もしかしたらもう廊下に出ているかもと思い教室を出ると、案の定、そこに彼女がいた。しかも部室の方向を向いているのではなく、それとは正反対の、こっちを向いて立っている。

「あ!鶴川君!一緒に行こ?」

 未希は俺に向かってそう言って、微笑んだ。つまり彼女は、俺が教室から出てくるのを待っていてくれたのだ。そして「一緒に行こ?」である。これで骨抜きメロメロ放心状態にされない男など、この世に存在するのであろうか?俺はなんとか平静を装って「あ、うん!待っててくれたの?ありがとう!」と言ったが、頭の中では「もうダメ!完全に降参です!」と叫んでいた。

 しかし、未希の攻撃はそれだけでは終わらなかった。廊下を歩きながら彼女はこう言った。

「あの後も休み時間になる度に、鶴川君のクラスに行こうか迷ってたんだけど、何度も行って迷惑になったら悪いと思って…我慢しちゃった。アハハ」

 迷惑?とんでもない!そんなこと、天と地がひっくり返ってもあり得ない!百億パーセントあり得ない!俺は頭の中でそう叫んでから、本当にそれを口にした。

「迷惑だなんて!ぜっっっっっっったいにあり得ません!百億パーセント、あり得ないよ!めちゃくちゃ嬉しいもん!来てくれたら!」

 言い終えた俺は、『よし、これで誤解される余地は無くなった』と安心した。とにかく俺は、『私のこと、あんまり好きじゃないのかな』などと誤解されることが怖いのだ。それだったら、伝えて嫌われる方がマシだ。

 未希は「えー?そんなに嬉しいの〜?」と、小悪魔的な笑顔で言った。擬態語で表現するなら『ニヤニヤ』という感じだ。読書好き、絵を描くの好き、小悪魔的、眼鏡っ子…こいつは、俺の好きな属性をいくつ持ってるんだよ!

 俺は未希の凄まじい魅力に中てられて、ほとんど意識が朦朧とした状態で歩いていた。放心状態と言ってもいい。

「嬉しいに決まってるでしょ…宝くじで三億円当たるより、工藤さんが休み時間に来てくれる方が嬉しいんだから、俺…」

 岩瀬に「この手紙はめちゃくちゃだ」と偉そうに言った俺だったが、もはや岩瀬の手紙と同レベルか、それ以上にめちゃくちゃな発言をしてしまっていた。しかし岩瀬と同様、そこに嘘は無いのである。バカ正直に言っているだけだ。

「え〜?私の訪問ってそんなに価値あったの?キャハハ!」

 未希は楽しそうに爆笑していた。何であれ、未希を笑顔に出来たのだから、それでいい。

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