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岩瀬との対話3

 俺は更に岩瀬の『突っ込みどころの博物館』とでも言うべきラブレターを読み進めた。『僕はもし田辺さんとお付き合い出来たら、水族館に一緒に行きたいと思っています。』告白のラブレターの中で、交際開始後の計画を発表するか?普通。『一緒にタコやイソギンチャクを観たいです。』何だよ、その微妙過ぎる選択は!普通はカクレクマノミとかだろ!『タコのお母さんって、命がけで卵を守るんです。ウツボに身体をかじられても、絶対に動かず卵を守り続けるんです。僕はその様子をテレビで観て、とても感動しました。』ああ、それは俺も観たことがある。あれは確かに感動する。でも、ラブレターにそれを書くのかよ。『僕も、田辺さんをしっかり守る立派な彼氏になりたいです。』それ、まだ付き合ってもいないのに言うの?『僕は先週、新しいスニーカーを買ってもらいました。』なんだこれ!チラシの裏にでも書いておけよ!『色は青です。』知らんがな!『そのスニーカーをはいて田辺さんとデート出来たなら、僕はもう何も思い残すことはありません。』なんだ、こいつは。小6なのに出家でもする気か?『そんなわけで、長くなりましたが、田辺さん、大好きです。 岩瀬健人』どんなわけだよ?面白過ぎるだろ、このラブレター。

「あのな…岩瀬。率直に言って、このラブレター、めちゃくちゃだ。でも、このままでいいと思う」

「えっ。め、めちゃくちゃなのか?それ。なんで、めちゃくちゃなのにそのままでいいんだよ?書き直した方がいいだろ。俺は何度でも書き直すぞ!」

「それだ。それなんだよ。お前のそういう、バカなんだけど真っすぐなところが、全て表れているんだ、このラブレターには。だから、このままでいいんだ。これを、田辺にそのまま渡せ」

 俺はそう言ってラブレターを岩瀬に返した。岩瀬は少し照れたような顔をした後、「…分かった。これを渡すことにする」と、真剣な顔で言った。

 休み時間が終わり、次の授業が始まった。俺は三列前の、ふたつ右の席にある岩瀬の背中を眺めながら先生の説明を聴いていた。そして、こんなことを考えた。「あの背中は、ただの背中じゃない。真剣に、一人の人を想い、守りたいと思っている男の背中なんだ」そう思うと、いつも見ている岩瀬の背中が、いつもより大きく見えた。あいつは、田辺さんを守りたいと思っている。タコのお母さんのように。俺は、どうだろうか。答えはもう出ていた。

 俺は、未希を守りたい。

 俺は窓の外に視線を移した。未希に初めて会ったB棟の入り口が見える。あのとき陽光に照らされ輝いていた樹々の梢が、今日も優しい風に撫でられきらきら光りながら揺れていた。

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