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八年後 26

鶴川『ひ…響いたって言っても、なんかモヤモヤする…新美南吉先生に申し訳ないというか…』


高山『た、確かに…。スッキリした読後感とは…言えないかも知れません…』


阿川『とりあえず新美南吉先生に謝っておいた方がいいんじゃないの?小山さん。フフフ…』


双葉『ごめんなさい!新美南吉先生』


鶴川『今度は、出来れば完全オリジナル作品を頼むよ、双葉』


双葉『承知致しましたわッ!オーッホッホッ!』


阿川『チャットで話すときも、それ、わざわざ打ち込むんだ…』


双葉『当然ですわッ!わたくしのアイデンティティでございますからッ!』


鶴川『俺、そろそろ眠くなってきたから寝るわ!みんな、またね!』


阿川『おやすみ、部長』


双葉『おやすみなさいませッ!』


高山『楽しかったです!また今度!』


 その日のライングループでの会話はそれで終了した。高山は鶴川の作品『未希へ届け!』と、双葉の奇天烈な小説に刺激を受け、自分も物語を書いてみたいという想いを膨らませていった。

 その週の金曜日の夜、高山隼人は自宅で夕食を済ませたあと、リビングルームのソファに座りながら、キッチンで洗い物をしている妹の舞子に話しかけた。

「舞子、お前…今度の日曜日、空いてるか?」

「え?なんで?」

「もし空いてるなら、『友達券』使いたいんだけど」

 隼人がそう言うと、今度は二秒ほどの沈黙を挟んで、舞子がこう答えた。

「友達とダンスの練習する約束してるから、無理ッ!」    

 隼人は「あ、そうなんだ…分かった!気にしなくていいからね」と笑顔で言った。舞子は背を向けているので隼人の笑顔を視認したわけではなかったが、声の調子から、兄が笑顔で言ったことを察した。そして、それが少し寂しさを含んだ笑顔であることも。

 洗い物を終えた舞子は、無言で自分の部屋に戻っていった。しばらくすると半開きのドアの隙間から、舞子が自分のスマホで友達と会話している声が聞こえてきた。「…うん、そうなの…」「…ごめんね!」といった断片的な妹の言葉が隼人の耳に入ってきた。やがて舞子は自室から出てきて、

「日曜日、お兄ちゃんと出かけてあげる」

 と、無愛想に言った。それは本当の無愛想ではなく、本当の気持ちを必死に押し隠して舞子が表面上に作り上げた、上辺だけの「無愛想」だった。

「えっ。友達と練習するんじゃなかったの?」

「バカ!聞こえてたくせに!分かってるでしょ?断ってあげたんだよ!誰かさんのために。言わせんなよ、恥ずかしい」

 舞子の言葉に高山はこう思った。『来た…!ハレー彗星が、来た…!』

「ありがとう、舞子!俺、もうどこに行くか決めてるんだ」

「はぁ?勝手に決めないでよ。で、どこに行くつもりなのよ」

「上野動物園」

「え!?冗談だよね?私、小学生の女の子じゃないんだよ?」

「何言ってるんだよ。大人だって普通に行くでしょ、動物園って」

「私に反論するなッ!お兄ちゃんのくせに生意気だッ!」

「どこのジャイアンだよ。貴重な『友達券』を一枚使うんだから、俺の希望に合わせてくれてもいいでしょ。お前が八歳か九歳くらいのとき、一緒に行ったの覚えてる?あのときはお前から『お兄ちゃんと行きたい』って言ってきたんだぜ?可愛かったなぁ」

「ちょっと!恥ずかしいから、昔のこと言わないでよッ!もうッ!…ていうか、今でも可愛いでしょ?今は可愛くないとか言ったら、殺すからねッ!」

「アハハハ!今もめっちゃ可愛いから安心しろよ。アハハハ」

「…バカッ!」

 舞子は顔を赤くして再び自室に戻り、バタンと音をたててドアを閉めた。

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