八年後 21
「あの…ひとつ訊いてもいいですか?みなさんは、小説を書いたりしているんですか?」
高山の質問に、鶴川達三人は顔を見合わせて目をパチクリした。口を開いたのは鶴川だった。
「僕は、書いています。さっき話した、連絡が取れなくなっている大切な部員のことを…。というか、小学生のときの国語クラブのことを小説にしているんです。どうせいつか話すことになると思うから、今言っちゃいますけど、僕はその部員、工藤未希のことが好きなんです。部員として好きとかじゃなくて、はっきり言って恋愛感情です。いきなりこんな話をしちゃって、ごめんなさい。でも、誰にでも話すというわけじゃないんです。僕は飲み会で初めて会ったときから、高山君は信頼出来そうな人だと感じていました。そして今日、妹さんについて君が話すのを聞いて、やっぱり自分の目に間違いは無かったと確信しました。だから、話すんです。僕は、未希のことが好きです。でも同時に、未希には絶対に迷惑をかけたくないと思っています。もし未希が僕に二度と会いたくないのであれば、その気持ちを、当たり前のことですけど、尊重したいと思っています。僕が一番大切にしているのは、未希の自由や幸せを守ること、未希の笑顔を守ることです。だから、未希が会いたくないと言うなら、僕はそれでいいんです。ただ、まだそう言われたわけではないので、未希に迷惑がかからないような形で、今の自分に出来ることをしたいと思ったんです。そしてそれは、未希が読んだときに少しでも幸せな気持ちになれるような小説を、心を込めて書くことだと思ったんです」
鶴川の話を、高山は真剣な表情で聴いていた。そして聴き終えると、
「そうだったんですね。話してくださって、僕のことを信頼してくださって、本当にありがとうございます。おれ、鶴川君の信頼を裏切るようなこと、絶対にしませんから」と言った。
高山はそのとき初めて「おれ」という一人称を使った。普通なら少し粗野に感じるその言葉の響きが、そのときの鶴川には何故か、とても真っすぐで美しいものに感じられた。
「ありがとう、高山君」鶴川は真っすぐ高山の目を見て、少し微笑みながら言った。
「そう言えば、冬真と双葉は今、小説書いてるの?冬真にはたまに訊いてるけど、いつも『そのうち書こうと思ってるけど、今はまだ書いてない』とか言ってるよね?」
鶴川がそう訊くと、阿川は「うん。相変わらずそんな感じで、まだボクは書き始めていないよ」と答えた。双葉は、
「わたくしは、実は書いておりますッ!そもそもわたくし、書く気満々で国文科に入ったのでございますッ!あれこれ読んで、自分の創作に活かしていくという魂胆なのでございますッ!」
と言って目を輝かせた。そのとき高山隼人が、国語クラブ Version 2.0 PWFMにとって画期的な提案をした。
「あの…国語クラブのライングループって、あるんですか?もし無いなら、作りませんか?スマホで小説を書いて、そこにコピペして共有すれば、お互いの作品を読んだり、感想を言い合ったり出来て、便利だと思うんですけど…」
「そ、それだっ!ウチの部長、全く時代について行けてないアナログ人間だから、一緒にいるボクまで悪影響を受けて、今までその発想が出てこないまま生きてきてしまったッ!なにしろウチの部長は、いまだに原稿用紙に鉛筆で小説を書いているんだよッ!」
阿川の言葉を聞いて高山は「アハハハ…原稿用紙に鉛筆って、むしろめちゃくちゃ格好いいじゃないですか!」と言い、笑った。鶴川は、
「スネ夫、お前は黙ってろッ!…高山君!そのアイデア、素晴らしいよッ!その案、採用決定!!」と興奮気味に言った。




